人と接触しないと認知症発症57%アップ

ところで社会とのつながりと一言にいっても、色々な側面があります。大きくは、構造的側面と機能的側面に分けることができます。

『「つながり」と健康格差』(村山 洋史著・ポプラ社刊)

構造的側面には、つながりの「大きさ」(例:知り合いが何人いるか)、「種類や多様性」(例:知り合いにどのくらい違う職業の人が含まれているか)、「太さ」(例:どのくらいの頻度で連絡をとっているか)などが含まれます。この構造的側面の総称として、「ソーシャルネットワーク」という言葉が使われます。婚姻状況や世帯構成(一人暮らしなど)も構造的側面の一部といえます。

一方の機能的側面には、社会的つながりを通してやり取りされる支援を意味する「ソーシャルサポート」、社会的つながりに対する「満足感」、社会的つながりの不足に起因する「孤独感」などが含まれます。

オランダの研究者が行ったメタ分析では、認知症の発症に関連したのは、社会参加活動をしていないこと、人との接触頻度が低いこと、孤独感を抱いていることでした。社会参加活動と人との接触頻度は構造的側面、孤独感は機能的側面を表しています。

影響の強さについてはいずれも同じくらいの結果であり、社会参加活動をしていないことは認知症の発症しやすさを41%、人との接触頻度が低いことは57%上昇させていました。同様に、孤独感は58%上昇させているという結果でした。認知症の発症に着目しても、構造的側面も機能的側面も両方ともに重要といえます。

社会参加を含め、人とコミュニケーションをとったり、会話の中で過去のエピソードを思い出したり、あるいは人との関係を取り持ったりすることが脳への刺激となり、認知症の発症や認知機能の低下を抑制している可能性が考えられます。

「ハピネス」か「ウェルビーイング」か

また、心血管疾患に含まれる冠動脈疾患や脳卒中の発症に社会的つながりが関係しているかを調べたメタ分析もあります。社会的孤立(構造的側面)と孤独感(機能的側面)の2つを含めた社会的つながりの少なさは、冠動脈疾患の発症を29%、脳卒中の発症を32%、それぞれ上昇させており、男女による違いはありませんでした。

死亡と同様に、認知症や心血管疾患などの病気の発症についても、構造的、機能的つながりの両方が関係していることが分かります。

次に、幸せにも注目してみましょう。

この幸せという言葉は、抽象的で人によって持つイメージも違います。この分野の研究では、「ハピネス(happiness)」と「ウェルビーイング(well-being)」の2つの用語が主に使用されます。

ハピネスは、どちらかというと時間的に短いスパンでの「楽しさ」を表す概念といわれています。経時的に変化するもの、動的なものと捉える考え方です。一方、ウェルビーイングは、身体的にも精神的にも社会的にも「良好な状態」を表す言葉と定義され、一時の感情ではなく、持続的に満たされた状態と捉えられています。

最近では、ハピネスの程度は将来の死亡率を予測しないという論文が出ている一方で、ウェルビーイングについては、高いほど将来の死亡率が低いという知見が優勢です。ここでは、後者のウェルビーイングを取り上げたいと思います。