【片山】戦争はともかく、災害などの非常時に備えて造られたのでしょう。内乱や暴動が起きて籠城するかも、とまでは想定していなかったでしょうが。

佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)

【佐藤】でも平成も終わりにきて、暴動が本当に起きてもおかしくない社会になってきた。

東急に代表されるほかのディベロッパーの場合は、低層階にはUR賃貸住宅などを入れて、高層階を富裕層向けに売り出している。つまり中産階級も利用できるようにしている。しかし六本木ヒルズは中産階級以下を完全に排除した。このコンセプトの違いは大きい。

格差が広がったとき、六本木ヒルズは憎しみのシンボルになる。そう考えると東急などのディベロッパーのやり方が利口な気がしますね。

断絶は社会の緊張を高める

【片山】東急などには、中産階級に一戸建てを買ってもらおうという私鉄沿線文化がありますよね。何もないところと言っては失礼だけれども、農村地帯、田園地帯に鉄道を通して、渋谷まで何分、目黒や五反田や大井町まで何分と言って、サラリーマン階級に郊外の一戸建てを買わせてゆく。もともとは阪急の小林一三が考えたわけでしょうが。本当は金持ちでない人に金持ち気分を味わわせて、上を見させて、夢を与える。それが都心のマンションの低層階に安めに住める抜け穴を残しておく文化につながるのでしょう。階級宥和の思想ですね。

しかし六本木ヒルズを開発した森ビルは高層階の思想に特化しています。企業としてはたいした儲けにならない階層を外すのはまったくもって正しいことになるのでしょうが、断絶を作り出すやり方は社会の緊張を高める方向に作用せざるを得ない。

天皇制を脱構築する可能性

【片山】断絶を作るヒルズの主とされたのが、堀江貴文らニューリッチと呼ばれる存在でした。ヒルズと同様、彼らの存在そのものが、日本の旧来の価値観を大きく揺さぶるものであったのではありませんか。

【佐藤】はい。たとえばホリエモン的な存在は、天皇制を脱構築してしまう可能性すらあると思っているんです。天皇の存在は認めます。大切にもします。ただしそれはそれ。ひとまず横に置いて何より大切なのは金儲けでしょう。これで天皇制は無力化してしまう。実際にそうした人間は、左右問わず増えたと思います。