野党の質問に涙ぐむ防衛大臣

2012年末、自民党が衆議院解散総選挙で民主党を下して第二次安倍内閣が成立すると、稲田は内閣府特命担当大臣に抜擢され入閣する。安倍内閣は「クールジャパン戦略」を掲げ、その根幹として「クールジャパン推進会議」を設置。有識者を招いて国の文化戦略の方針を議論させた。その議長となったのが稲田であった。

アニメ、漫画、コスプレ、果ては「カワイイ」に代表される日本のポップカルチャーや若者文化を、海外に積極的に売り出していこうというのが趣旨の「クールジャパン推進会議」は、しかし議事録を読む限りにおいては惨たんたる状態であった。

特に議長を務めた稲田の文化に対する無知ぶりは、突出を通り越して失笑を買った。国家の文化戦略の長をつかさどる稲田のこのような不見識は、当時、辛うじて失笑で済まされた半ばギャグのような失態であった。が、この後「防衛大臣」の重責を任されると、民進党の辻元清美議員からの追及に涙ぐむ(2016年9月)。

国家国防を任された陸海空三軍のトップが、いち野党議員の質問に窮して泣き出すという不始末に、稲田の人格的欠点であるという以前に、防衛組織の長としての資質を危ぶむ声も出始めた。この事実は、民進党や辻元議員を蛇蝎(だかつ)の如く敵視する保守層・ネット右翼層全般にとっても、「オウンゴール」として叱咤の対象となるのは当然である。

思えばこの「涙ぐみ」事件以降、稲田を支持してきた保守層やネット右翼界隈からも、稲田への支持は急速に色あせていったように思う。「少しの追及で涙ぐむ稲田が自衛隊のトップで、この国の防衛は本当に大丈夫なのか──」保守層ならずとも、誰しもがこのような感想を持ったであろう。

必然、同じ防衛大臣を務めた自民党時代の小池百合子(第一次安倍内閣)との比較がなされる。どう考えても、小池の方が防衛大臣としての風格は上であり、それに対して稲田は素人同然である。「辻元に(すら)負けた稲田──」。稲田に対する熱狂的な支持はこれを機に、2016年秋ごろから徐々にだが、はっきりと後退していく。

「グッドルッキング」を自称

極めつきはシンガポールの国際防衛会議で自らを「グッドルッキング(美しい容姿)」と自称するなどの奇行・奇言が目立ち始めたことだ。2017年に入ると、ゼロ年代にあれだけ保守界隈、ネット右翼界隈から「ネット右翼のアイドル」として支持されてきた稲田の権勢は衰退し、稲田は一転して嘲笑の対象になりつつあった。そこへきて「日報」問題がとどめを刺した。稲田の辞任は、こういった稲田自身の素養の欠如の積み重ねが招いた必然である。

「30歳を過ぎるころまで政治や歴史に何の関心も持たなかった市井の弁護士」が、ある日、ネット右翼的世界観に「目覚め」たことにより、一挙に保守層・ネット右翼層の寵愛を受け、代議士にまでなったのは、稲田が女性だったからだ。無知が故に既存の右派的世界観を忠実にトレースし、またトレースするしか術を持たなかった稲田は、防衛大臣という国家の防衛を担う重責を、全く果たす実力がないにもかかわらず、ゲタを履かされた状態で任され、そして自業自得の如く自滅するに至る。(文中敬称略)

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