しかし、その状況に陰りが見えてきているというのが、多くの関係者の共通認識だ。冒頭で紹介した「稲村亜美事件」に揺れたリトルシニア関東連盟では、同じ開幕式でもうひとつの「異変」が起きていた。

「開幕式に参加したチームが199チームで、ついに200チームを割ってしまいました。しかも、入場行進には1チーム25人ずつ参加できるのに、その人数を満たせなくて、10人とか15人で参加しているチームも多かったです」(大会関係者)

1チーム25人で約200チームなら、単純計算で5000人の中学生が参加できたはずだ。しかし、「正確な数は分からないが、おそらく4000人くらいしか参加していなかっただろう」というのが関係者の共通した意見である。リトルシニア関東連盟では「神宮球場で入場行進ができるのは自分たちだけ」ということを自慢にしていて、古参の役員は「子どもたちは神宮球場に入れることを毎年楽しみにしているんだ」と口をそろえるのだが、そのわりに参加者が想定より2割も不足しているのはどういうことなのだろうか。

「観る野球」と「プレーする野球」の人気の乖離

実は、この点にこそ野球界の深刻な問題がある。「観る野球」の人気と「プレーする野球」の現状に大きな差が生まれてしまい、特に若年層の野球離れが深刻な状態に陥っている。リトルシニアの開幕式でいえば、単純に参加する子どもたちの数が減ってしまっているのだ。そして、もうひとつ大きな問題は、運営する大人たちの間でも正しい現状認識ができていない人が多いことだ。

少年野球の子どもたち(画像=筆者提供)

一時は落ち込んだと言われたプロ野球人気も、日本プロフェッショナル野球機構(NPB)や各球団の努力で観客動員数は持ち直しており、ここ数年は過去最高を更新し続けている。「カープ女子」で知られる広島東洋カープや、球団改革に成功した横浜DeNAベイスターズがその代表例といっていいだろう。両チームとも、10年前には本拠地球場に閑古鳥が鳴いていたのに、近年では毎試合観客が詰めかけ、チケットを容易に入手できないことが問題になっているほどだ。

大学野球にせよ高校野球にせよ、いわゆる“伝統の一戦”や、注目選手が出場する試合ともなれば、球場が満員になることは少なくない。不況の影響で企業スポーツが厳しい運営を迫られているとはいえ、社会人野球もビッグイベントではかなりの観客を動員する。報道でもいまだに野球には別格の地位が与えられており、プロアマを問わず観戦スポーツとしての人気は決して衰えていない。