「稲垣メンバー」と「草なぎ容疑者」の違い
2001年8月、SMAPの稲垣吾郎が公務執行妨害と道路交通法違反の「現行犯」で逮捕された。各テレビ局は、ジャニーズ事務所側の強い「要請」があったのだろう、稲垣容疑者ではなく稲垣メンバーなる不可解な呼称を連呼した。
私の友人で芸能レポーターの梨元勝(故人)は、当時出ていたテレビ朝日の番組で局から、稲垣のことには触れないでくれといわれ、激怒して出演拒否した。それがきっかけになり、梨元はテレビ局から疎まれ、活躍の場をネットへと移すことになった。
2009年4月にはSMAPの草なぎ剛が泥酔し、全裸になって公園で暴れ、公然わいせつ罪の現行犯で逮捕された。この時は、稲垣メンバーという呼び方に批判が高まったこともあってか、草なぎ剛メンバーではなく、容疑者と呼んだ。
今回なぜ「メンバー」が復活したのだろう。スポーツ紙のように山口達也でいいはずだ。『BuzzFeed』(4月27日発信)は、新聞各社に肩書をメンバーとした理由について聞いている。
朝日新聞は、逮捕時、書類送検時など、「事案の軽重や当事者の属性などを踏まえて実名か匿名か、どのような呼称とするかを個別に判断する」と答えている。
小倉智昭「NHKは事務所側に連絡を入れていたのか」
だが山口に肩書がないからメンバーとしたというのは、苦しいいい訳だ。朝日新聞出版が発行している『事件の取材と報道 2012』ではこう記されている。「社会的影響が大きな事件などでは、特にこうした見通しを十分に取材したうえで、書類送検時であっても実名・容疑者呼称を検討する」
今回の件は、十分に社会的影響の大きい事件だと思うのだが。
書類送検されたが、示談が成立していたこともあり「起訴猶予処分」になった瞬間、「山口さん」といい換えたテレビ局の節操のなさにはあきれた。本当は「山口様」とでもいいたかったのではないか。
スキャンダルを起こした芸能人を擁護することで知られる小倉智昭の『とくダネ!』(フジテレビ・5月3日放送)で、小倉は、NHKはニュースを流す前にジャニーズ事務所側にキチッと連絡を入れていたのかとNHKの報道姿勢に疑問を呈していた。
さすがにこれにはコメンテーターの社会学者・古市憲寿が、「これがもし、事務所から『ちょっとやめてくれないか』っていわれ、のんじゃうのも、どうかって、違う気がする」と反論していた。
だが彼も、同番組の中で「(地検が不起訴にしたのだから)大した犯罪じゃなかったわけですから」と発言していたのには驚かされた。