前編で日本の消費について多くの示唆を与えてくれた三越伊勢丹HD元社長の大西洋氏。後編では氏の職業人生に焦点を当て、マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏が大西氏の仕事と経営の哲学を深く掘り下げる。“カリスマ”の一味違う仕事論には、受難の時代を生き抜く知恵が溢れている。
大西 洋●OFFICE TAISEIYO 代表。1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。79年伊勢丹入社。紳士部門を歩んだ後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長などを経て、2009年伊勢丹社長執行役員、12年三越伊勢丹HD社長、三越伊勢丹社長に就任。17年4月退任し、現職。

なぜ経営者はオシャレであるべきなのか?

【酒井】前回は、大西さんが三越伊勢丹の社長時代に取り組まれた改革を中心に、百貨店業界の今後の可能性などについてお聞きましたが、今回は職業人としての大西さん個人のお話をうかがえればと思います。

大西さんは長年メンズファッションに関わってこられたわけですが、百貨店に限らず企業の経営者はファッションをどう捉えるべきだと思いますか。

【大西】私の前任は武藤信一という社長でして、私は40歳のとき、彼について経営者の集まりなどによく行きました。そこでは、各社の社長が壇上に上がるシーンがあり、そのような場で武藤をよく見ていました。手前みそですが、そういうとき、武藤はいちばんおしゃれで格好よかったのです。ほかの会社の社長はほとんどの方がオーソドックスでしたが、その中で武藤はひときわ目立っていました。変な目立ち方ではなく、全身に気持ちが行き届いていた。

そのとき、自分の会社の社長が武藤でよかったな、と思いました。このように思えるのは、社員にとってものすごい力になります。とくに若い社員には、経営手腕以上に、社長のイメージや発信力が大きな影響を与えることもあるでしょう。ですから、経営者がファッション面で自分をどう見せていくかはとても重要だと思います。

【酒井】ひと昔前の経営者は、お洒落に無頓着な人も多かったような気がしますね。

【大西】最近は色々な意味でみなさんお洒落になりつつありますし、興味をもたれている方も多いでしょう。しかしやはり経営者の集まりなどに顔を出して、皆さんの「足下」を見ると黒い靴の人が圧倒的に多い。靴にこだわる人がもう少しいるとさらに楽しいですね。