「この患者は治療や服薬を勝手にやめる」とAIが予測

AIによる予測で使われるのは、時系列データ分析と呼ばれる手法だ。生活習慣病を診療する医師は、患者の過去の健康状態の推移や治療の履歴、さらに現在の状態を見て、今後の経過を予測し、治療にあたる。それと同様に、患者の過去のデータの推移を深層学習で分析することで、「このタイプの患者なら今後はこういう経緯をたどるだろう」ということを予測するのだ。

生活習慣病の多くは進行するまで自覚症状がなく、自己判断で治療を中断する人が少なくない。そこで威力を発揮しそうなのが「介入」だ。「このパターンの患者さんはそろそろ治療をやめそうだなとAIが判断したとき、スマートフォンのアプリで『お薬飲んでますか?』『食事に気をつけてますか?』といったメッセージを送れば、治療継続率は間違いなく上がります」。

AIによる時系列データ解析はまだ発展途上で、「画像診断ほどの精度は出ていません」と原氏は言う。情報医療では目下、企業の健康診断のデータや、保険診療の内容を記載したレセプト(診療報酬明細書)のデータを用いた研究を進めているが、予測の精度を高めるには、食生活や睡眠時間、運動量といった多種多様なデータを、もっと大量に集める必要がある。今後は同社が提供中のスマートフォンを使った遠隔診療システムを通じて、問診情報やビデオ診察動画などのデータを活用することも考えているという。

「日本の医療機関や研究所には、深層学習の対象になっていないデータがまだたくさんあります。歩幅や座っている時間など、まだデータ化されていないものも、将来は各所に埋め込まれたセンサーで収集されるようになるかもしれません。日本のAI医療の進化は、これからが本番です」

AIによる医療支援と、スマートフォンを活用した遠隔診療システムの組み合わせの模式図。問診や動画のデータがAIのデータセットとして蓄積され、病気の予測や早期介入、治療継続の働きかけが行われる。
原 聖吾
情報医療CEO
1981年生まれ。東京大学医学部卒、スタンフォードMBA。国立国際医療センター、日本医療政策機構、マッキンゼー等を経て創業。厚生労働省の「保健医療2035」事務局にて、2035年の日本の医療政策提言策定に従事。
(写真=iStock.com)
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