断るときこそ肯定形で

厳しい決断を迫られるのは、ビジネスの日常です。感情的なトラブルになりがちなのは、相手からの依頼や期待、あるいはアドバイスや提案を拒絶するとき。

結果は「否(いな)」なのですが、断られたほうが比較的受け入れやすい言い方としては、肯定形で断る方法があります。

「できません」→「いたしかねます」
「いりません」→「お気持ちだけいただきます」

人は、否定の言葉を言うときと肯定の言葉を言うときでは、表情やしぐさといったノンバーバル(非言語)・コミュニケーションが違います。「できません」ではなく「いたしかねます」と言うと、内容は否定でもいくぶん和らぎます。

また、相手が急に態度をひるがえしたり、身勝手な要求をしたりといった理不尽な場面に遭遇することもあるでしょう。そんなときは、「受け入れられません」ではなく「困っております」と言います。

怒りにまかせて相手を否定する前に、YESでもNOでもない「困っている」という言葉で、暗に「受け入れられない」ことを伝えておきます。

ビジネスでは“言質”が重要です。言質を取られると、後で大変な事態に陥ることが多々あります。不用意に否定語を使うと、後々のトラブルに発展しかねません。できるだけ肯定語に言い換えるのが賢明です。

あえて“主体”を曖昧にしておく

ビジネス上の判断は、個人でするものではありません。個人としてはYESでも、組織としての判断、経営上の判断がNOであればNOです。明らかに困難な価格交渉でも、「交渉する」という命がくだれば交渉するしかありません。

そのやりとりをするのは人。人(担当者)が人(相手側の担当者)に対して、組織的な判断についてコミュニケーションするところがビジネスの難しさです。

言いにくいことを言うとき、つい「すみませんが」「申し訳ありませんが」という枕詞を使いがちですが、これは危険です。「すみません」「申し訳ありません」は謝罪の語彙。たとえ深い意味もなく使ったとしても、謝っていることに変わりはありません。言質を取られて不利な立場になる典型的な場面です。

ここでは「心ならずも」「大変不本意ですが」を使います。

どちらも、「やむをえず」「自分の本当の気持ちとは違う」という意味を表します。これを枕詞にすると、「決して私の意図するところではありません、むしろ私はそうなる(ならない)ように願っていたのです」と言わんばかりの気持ちが伝わります。

その上、絶妙に“主体”が曖昧になり、責任の所在がぼやけるので安全です。