こうした経緯があったため、てっきり、これまでB-1Bが飛行した空域には、この軍事境界線区域も含まれていると思っていた。わざわざ「今世紀でもっとも北まで飛行した」と表現しているということは、おそらく今回、初めて軍事境界線区域内を飛行したのだろう。だとすれば、「これまで一体どこを飛んでいたのか」という疑問が湧く。これまでに米軍の飛行で唯一公表されたのは、非武装地帯付近まで接近した時だけで、今回の飛行も詳細なルートは公表されていない。
推測するに、これまでは韓国の沿岸を飛行する「当たり障りのない」飛行だったために、なんの「牽制」にもなっていなかった。だからこそ、今回は北朝鮮をより確実に「牽制」できるような飛行を行ったのだろう。
本当にレーダーは作動していなかったのか
北朝鮮軍はB-1Bが北上した際に、対抗措置として東海岸の元山(ウォンサン)に近いSA-5地対空ミサイルのレーダーを作動させたという報道がある。
しかし、韓国の情報機関である国家情報院は26日、B-1Bが北朝鮮の沖合を飛行した際に北朝鮮軍は「対応できなかった」との見方を示すとともに、「真夜中の飛行を予想できず、爆撃機をレーダーでしっかりと把握できなかった模様」と分析している。
国家情報院は北朝鮮軍の無線を傍受した結果、「対応できなかった」としているのだろう。しかし、その後に「しっかりと把握できなかった模様」という曖昧な表現を使っている。これは、北朝鮮側に手の内(傍受する能力)を見せたくなかったからだろう。地対空ミサイルのレーダーを作動させたという報道が正しければ、韓国上空を監視している対空レーダーも作動していた可能性がある。地対空ミサイルのレーダーだけを作動させているとは考えにくいからだ。
北朝鮮軍は、韓国とその周辺を飛行する航空機を監視するレーダーを非武装地帯付近の山岳地帯に配備している。これらのレーダーが作動しているかどうかは、北朝鮮軍のレーダーが発する信号を傍受することにより明確にわかる。もし信号がまったく受信できなかった場合は、レーダーが作動していないことを意味する。
さらに、レーダー基地が指揮所へ送る通信を傍受することができれば、北朝鮮軍のレーダーに何が映っているのかも知ることもできる。このように、北朝鮮軍のレーダーが作動しているかどうかは簡単に確認できる。
今回のB-1Bの飛行とは関係なく、深夜であっても北朝鮮軍がレーダーを止められない理由は、在韓米軍は24時間態勢で北朝鮮軍の動向を監視しているため、偵察機が飛行している可能性があることと、米軍が北朝鮮を爆撃するとしたら深夜に行われる可能性が高いからだ。その意味では、今回のB-1Bの飛行は、これまでの飛行よりもより実戦に近いものだったといえる。
想定しづらいことだが、もし本当に電力不足でレーダーが作動していなかったとしたら、北朝鮮軍の電力不足はかなり深刻で、経済制裁の効果が出ているといえる。韓国上空とその周辺の空域の監視は、北朝鮮軍にとっては、他の空域よりも重要であるため、レーダーを作動させる電力を確保するための燃料が最優先で供給されるはずだからだ。