若年人口増加のアジアに多額出資

経済力の増大に歩調を合わせて、自動車の保有台数が増えていったのと同じロジックである。それも高齢者ではなく、若い世代が増えていく国。どこの国でも若い世代は確実にインターネットの世界に入り込み、ネットが便利だと思うことは万国共通のことだ。中国のアリババの大成功により、ネット通販で流通する商品は発展途上の国でもどんどん購入されることが実証されている。その成功を見極めた結果、インドや東南アジアにターゲットをしぼったのではないか。

人口12億人のインドでは、爆発的な人気を誇る通販サイトのスナップディールに約677億円、タクシー配車サービス「オラ」を運用するANIテクノロジーに約230億円の出資を行っている。人口2億人のインドネシアにも触手を伸ばして、ネット通販のトコペディアに約110億円(別の出資者含む)を投資している。

約165億円もの高額報酬を支払いソフトバンクグループの副社長に据えたニケシュ・アローラ氏はインド人だ。米グーグル副社長としての経営手腕を評価しての起用ではあるが、インドは商慣行も違えば、規制もけっこう厳しい国であり、これからの孫氏の投資戦略上、インド人の優秀な人材が必要だったという考えもあったと思う。

なお、ソフトバンクはエネルギーやロボットなど、これまで全く踏み込んでいない事業領域にまで足を踏み入れた。しかしコア事業にはしないだろう。前述の金の卵を生むガチョウの話は、金の卵と金の卵を生むガチョウのどちらに価値があるのかという、イソップの寓話を引き合いに語ったもの。欲ばかりが先走るとすべてを失いかねないことを戒めた物語でもあり、イソップが冷静に問うていることを忘れるとは思えない。

BNPパリバ証券チーフ クレジットアナリスト
中空麻奈

慶應義塾大学卒業。野村総合研究所、J.P.モルガン証券等を経て2010年、BNPパリバ証券投資調査本部長、チーフクレジットアナリスト。
(構成=吉田茂人 撮影=小倉和徳)