所得や資産を隠している富裕層が狙われる

将来的には国民の全財産を国が把握できるようになる。その点を「監視国家のはじまりだ」と批判する声もある。しかし大村氏は「普通のサラリーマンが困ることはなにもない」という。

「徴税強化のターゲットは所得や資産を隠している富裕層です。ひとつの企業から収入を得るだけのサラリーマンは、すでに所得を把握されています。これに対し、富裕層は複数の企業から報酬を得たり、不動産収入や株式配当があったりするので、所得の把握が難しい。なかには『収入の一部を簿外の預貯金口座や他人名義の口座に振り込ませる』『資産を家族名義の貯金口座に分散する』といった手口で脱税を企てる人もいる。そんな悪質な手口に対して、マイナンバーは防犯カメラのような役割も果たすはずです」

「防犯カメラの精度が上がれば、犯人の検挙率も上がります。これまでは調査官の勘や経験が頼りでした。怪しいと睨んだ企業や個人を、証拠がなくても調べはじめる。職務質問のようなものです。そのため『税務調査に誤爆はつきもの』と言われていた。『誤爆』が減れば、税務調査はより効率的になり、調査官の負担も減るはずです」

これまで日本の税制は富裕層にとって有利なものだった。財務省の資料によると、所得税の負担率は合計所得金額が1億円までは上昇を続けるが、1億円を超えると次第に下がり始める(図を参照)。その代わりに上昇するのが所得に占める株式譲渡の占める割合だ。

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(上)所得1億円以上から「負担率」は低下する(下))日本は「税率は高い」が、「所得税の収入」は少ない

所得税は所得に応じて税率が上がり、年収4000万円超では税率は45%。さらに一律で10%の地方税が加わるので実際には55%となる。だが、株式譲渡では「申告分離課税」となり税率は20%と低い。所得が1億円を超える富裕層は、給与ではなく株式譲渡で報酬を得ることで、合法的な「節税」に励んでいる。

このため諸外国に比べ、日本は所得税の税率が高いにもかかわらず、所得税による収入は少ない。国税収入に占める個人所得税収入の割合を比較すると、日本が28.1%なのに対して、アメリカは70.7%。また国民所得に占める個人所得税の負担割合をみても、日本が7.4%なのに対し、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスはいずれも10%を超えている(図下を参照)。

「生活保護の申請や年金記録の確認などでマイナンバー制度は必ず役に立つ。いわば資産がなくて生活に困っている人ほど得をする制度です。一方で損をするのは富裕層。その点を正しく理解してほしいですね」(大村氏)

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