患者というより「顧客」。指名されれば報酬アップ

結局、Aさんは美容外科の知識や経験もないことから、まずはこうしたノルマなどがない病院を選ぶことにした。

「ノルマの有無で月収にかなり差がありました。ノルマなしのクリニックで基本給が月35万円。ありで50万。とはいえ、ノルマなしでも十分に前職より収入アップですし、むしろノルマでストレスが溜まるよりはいいと考えました。最終的に転職した現在の病院は基本給が月35万円、ボーナスが2カ月分(70万円)×年2回で合計約560万円。プラス160万円の収入アップです」

ところが、ノルマなしという条件で選んだ病院だったが、実は裏があったというAさん。

「報奨金制度というのがあって……。病院で販売しているオリジナルのドクターズコスメの販売数によって報奨金がもらえるんです。ノルマというわけではないのですが、その販売数に応じて収入が変わってもきます。最初は『えっ!? やっぱり営業させられるの?』とたじろいだのですが、実際には施術のあとに『ご自宅のケアにはこちらおすすめですよ』と伝えると、大半の方が嫌な顔せず一度は購入してくれて」

白衣を着てセールスすることに最初は違和感を覚えたが、徐々に慣れていったという。

「無理矢理な押し売り感がなく商品を勧められたのがせめてもの救いです。ただ、販売数が多い看護師と売り上げの無い看護師とでは、収入も院内での扱いも変わってくるので、本人がどう割り切れるかも重要になってきます」

▼最大ミッションは「リピーター客獲得」

業務上で一般病院の看護師との違いにとまどったことは他にどんな点があるのだろうか。

「まず、接するのが“患者さん”ではなく、“お客さま”であることですね。今までは、病気を患っている方のケアを行うことがメインで、指示はすべてドクターがします。一方、美容外科の場合、主導権を握るのはあくまでお客さま。どのような施術をしたいのかなど、お客さまが求めていることに対して、きめ細かく応えていくのが私たちの役目です」

今まではドクターに気を遣っていたが、客に気を遣うことが多くなり、ときにはクレームを受けることもある。もはや医療というより営業アシスタントとお客様相談室スタッフを兼ねたサービス業とも言える。

一般病院の看護師とほぼ同じ仕事内容の美容外科クリニックもあるが、こうした労働環境の変化に慣れずに辞める決断をするナースが少なくないのは事実だ。Aさんの場合は、もともと美容に興味があり、同性の女性客の気持ちも分かるところもあったので辞めたいとまでは思わなかったそうだ。