「書き写したものは一切見ません。五感を使ってより効率的に覚え込むために、ただ手を動かしているだけですから」と山口さん。

これまた、誰でもまねができそうだ。撮影のために、彼女に本を実際に読みながら書いてもらった。愛用している3色ボールペンで書き始めると、彼女は目をかっと見開き、本の右隣に置いたメモ用紙に軽快にペンを走らせ始める。

視線は本から一瞬も離さず、書き写している右手が紙の端からテーブルに移ったのを感じとると、機械的に次の行の頭に右手を戻して、再び書き始める。教科書を読み飛ばしながら見取り図をつくる一方で、音読や、英単語や慣用句を紙に書くことで情報を積み上げ、より立体的に肉付けする作業といえる。

最後に、山口さんが「我慢の教科」と表現する数学は、教科書をひたすら読む方法が使えない。いったい、どうしていたのか。

「教科書を読む代わりに、『赤チャート』と呼ばれる、高校教科書の標準レベルから、東大や京大の難関理系学部の入試問題レベルまでを収録した参考書を使い、それを合計7回繰り返し解いて、問題のパターンを覚え込む方法をとりました」

いくら応用問題とはいえ、数学の問題も突き詰めれば何パターンかに集約できると考えたからだという。パターン別に問題を繰り返し解いて、正解を導き出す流れを覚え込んだ。

「1回目は解答を見ながら問題を解きます。同じ問題を反復して解くことで、4回目ぐらいになると、考え方のパターンが頭に入り、解答を見なくても解けるようになってくるんですよ」

これは、算数への苦手意識が強い子こそ、まねしやすい方法かもしれない。山口さん自身、大学入試では、数学は高得点を期待できなかったが、平均点程度さえ取れれば、超高得点が狙える暗記科目で十分に補えるために、とくに支障はなかったらしい。

理科の場合は、「暗記できる部分が多い生物や地学に逃げるんです」と、彼女は苦笑しながら、正直に話す。

「教科書を7回読む。中学から大学まで、この勉強法を続けてきましたが、これが一番ゴールに近く、無駄がありません。妹に『どうやって勉強すればいいの?』と聞かれるたびに、私は『教科書を読みなさい』とだけアドバイスしてきました。読み込む勉強法なので、問題の解き方や考え方を他人にわかりやすく説明するのは、私、今でも苦手なんですよ」

彼女はあっけらかんとそう言い、両頬をふっとゆるめてみせた。

山口真由
1983年、札幌市出身。2002年、東京大学入学。司法試験、国家公務員第I種試験に合格。06年4月、財務省に入省。現在は弁護士として活動する傍ら、テレビ出演や執筆などでも活躍中。近著に『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』(扶桑社)。
(小川 聡=撮影 新沢圭一=ヘアメーク)
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