環境の変化が激しい中で、化学メーカーが時代の先端を行くためには、スピード感が最も重要であり、社員の“時間のベクトル”を合わせる必要がある。例えば、高機能素材や新分野での触媒技術を含むR&Dでは、従来は期限を切ることはなかった。しかし現在は、2年単位でそれまでの研究成果と将来の顧客ニーズを検証し、改めて時間軸の目標を設定するようにしている。
それだけではない。環境の変化に柔軟に対応していくために、それぞれの部門の責任者にできるだけ権限を委譲し、プロジェクトや案件ごとに決裁できる金額をこれまでの2倍にした。組織全体の仕事と時間の効率化が進み、スピードアップにつながっている。
同時に決裁書類の判子の数を半減させ、社内メールにつけるカーボンコピー(CC)は極力少なくすることを訴えてきた。仮に30人にあまり重要でないCCを送るとする。1人がメールを開いて読むのに1分かかったとすれば、合計して30分、その人たち、つまり会社の時間を浪費したことになってしまうのだ。
1週間の起点となる月曜日の朝に設けている「報・連・相タイム」も時間を合理的に使うためだ。9時あるいは10時から1時間程度、役員や部長クラスから問題点や悩み事を聞くようにしている。時間節約のために報告資料は最大で1枚が原則。当然、緊急性の高い問題も持ち込まれるので、その場合は、その問題に集中して解決に当たっていくことによってスピードアップを図る。
月曜日の朝イチでクライアントに謝罪
このように先送りしない文化を根付かせるための試みを実施してきたが、私はそれを率先して実行しなければならない立場にある。トップに求められるのは熟考と即決のバランスだろう。この2つはパラレルであるべきだ。
「熟考」の時間として、私は毎朝始業前の1時間を大切にしている。誰にも邪魔されずに、今日やるべきこと、今後1週間で取りかかるべき案件、さらに長期的で大きい仕事の段取りについてじっくりと考えられるからだ。この時間は頭も冴えており、冷静な判断ができる。始業前の1時間を大切にすることによって、その日、そして1週間が無駄なく有効に使える。