世界中が奇妙奇天烈な創作を待っている

「たとえば、フランスのデザイナーのファッションショーを見てると、裸に近い衣装とか出てくるでしょう。こんなの着られないよ、みたいなデザインのものをフランスのクリエイターは出してくる。

日本のアニメのクリエイターもフランスのファッションデザイナーのようなものなんです。世界中が奇妙奇天烈な創作を楽しみに待っているといっていい。

また、日本のアニメってテレビ放送が主だから、3カ月で入れ替わります。次から次へとさまざまな趣向の作品ができる。ディズニーみたいな予定調和ではない。海外のアニメファンはディズニーみたいな予定調和のアニメにはもう飽きているんじゃないかな」

海外でアニメファンを獲得し、マーケットを広げたのはまさしく東映アニメであり、スタジオジブリであり、長峯たちだ。

この人たちはトヨタや半導体製造装置の技術者と同じように、日本の産業を代表して世界マーケットで戦っている。

アニメ表現で難しい動きとは

では、世界で戦う長峯たちがアニメ表現で難しいと感じているキャラクターの動きとはどういうものなのだろうか。

長峯は「日常の動作表現が難しい」とはっきり言った。

「人間が立って座るのを表現するのがいちばん難しい。何気ない生活の動きが難しい。それもあって、アニメではまず表現しない。見る人たちは生活での動きをよくわかっています。下手な表現だなと思ったとたんにアニメを信頼しなくなる。パンチやキックのような動きって、普段から見ているものではありません。誇張した動きにしたとしても、見ている人は違和感を感じない。ところが、タバコを吸うといった何気ない動きは描こうとしても難しい。実写であっても役者さんにとっていちばん難しいのは何気ない動きだと思います」

ビデオゲーム用のデジタル3Dモデルを構築する女性デザイナー
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです

長峯の演技論は核心を突いている。高倉健が日本一の俳優と言われたのは、タバコをくわえて吸うといった何気ない動きの芝居が上手だったからだ。

しかも彼は何気ない動きをきわめてゆっくりやった。ファンは高倉のその演技にひきこまれた。