割り切れない数を現実世界で扱うということ

たとえば、割り算してみるときりがつけられない数(割り切れない数)が見つかる。

幅2メートルの土地を三等分したときの各幅は0.666……となり、どこまで行っても区切りがつかない、なんて場合だね。そこでこの奇妙な数もきっちりと表せるあたらしい数、分数が発明された。

つまり、数の化け物をとりあえず設定して、それまでの数字になかった新語をつくれば、割り切れない数でも現実世界で使えるようになる。

このあたらしいコンプライアンスに制御された数は、「有理数」と名づけられた。その新文字こそが分数だ。3分の2というやつだね。

この分数、今だってパソコンで書きだそうとするとワンタッチで書けないでしょ。まだパソコンがバカである証拠だ。

「掟破り」が新しいルールをつくる

しかし、数学も文学や美術と同じように大発展する。

たとえばピカソやマティスみたいな現代アートを、ちゃんとした美術と認めなければ、今の美術はありえなかったと思うでしょう。数学でも、ピカソ級の異質な数が見つかってしまった。

このあたらしいおきて破りの数が登場したのは、つい最近ではない。むかしからあって、代表的な例が円周率π(3.1415……)や√2(1.4142……)などだ。どうやってもスッキリした数字で表現できないから、πなどという数字以外の記号を用いるしかなくなった。これを「無理数」という。自分で無理だと宣言している数の記号だ。

無理数とは英語で「irrational」、訳せば不合理となる。無理というより、「ムチャ」と訳すべき数だったと思う。

でも、これで不合理な数というヘンテコな数もルール内に含められるようになった……と思ったら、まだまだ不合理を超えたありえない数、数ともいえない数があらわれた。その最たるものが「虚数」、つまりウソの数だ。

数学はついに、ウソの数も創造するようになり、この純粋に人工的で空想的な数学世界をつくり直すために、コンプライアンスを大幅に変えた。ウソもOKと!