「時間ができたらやりたい」の罠

「戦後の日本人の最大の問題は、アンビションというものが非常に低く抑えられてしまったことだと思う」。写真は学生時代の大前さん。(写真提供:大前伶子氏)

グローバル人材の育成ともう一つ、これからもやっていきたいと思っていることがある。それはライフタイム・エンパワーメント、死ぬまで元気と勇気をエンパワー、つまり注入し続けるような生涯教育である。

高齢化社会でありながら、日本ではリタイアした後に充実した日々を送っているという話をあまり聞かない。むしろ「どうやって生きていけばわからない」という人が多い。受験参考書で育ち、転職もしないで、会社から言われた通りに一所懸命仕事をしてきたような人ほど、そういう傾向が強いようだ。

私は『50代からの選択』という本を書いているし、事業部長クラスを対象としたBBTの経営塾でもハッピーリタイアメントを迎えるためのアドバイスをしている。

「あなたの現役時代が終わった。セカンドライフは9万時間の自由時間がある。さて、あなたは何をしますか?」

経営塾では毎年、こんな質問をする。いかにも日本人らしくて面白いのは、大半の人は引退を考えないことが美徳だと思っているということだ。自分が引退する日はわかっていても、その日までに何をしておこうとか、引退後に備えてこうしようなどと先回りして考えない。粛々とその日を迎えるという人が多い。

そういう人に強いて聞くと、「引退しても何か仕事があればやりたい」という。それは転職であって引退ではない。

リタイアして毎日が日曜日になったときにどうするか——。「今まで我慢してきたことをやりたい」という人もいる。ゴルフでも、釣りでも、好きなのに自由にやれなかったことを、時間ができたら思う存分やってみたい、と。

しかし時間ができたらやりたいと思っていたことを、リタイア後にやって「楽しい」と心底充足している人に私は会ったことがない。「やりたいこと」がリタイア後に簡単にできると思ったら大間違い。若いころから始めて仲間などを豊富につくり助走をつけておかないと、リタイアという踏切板で急に跳ぶのは難しい。気力も体力も、一緒に楽しむ仲間もついてこないのだ。