そもそも「共同声明」は、会談や会議を行った首脳や閣僚が、その成果として方針や目標を公にするもので、閣議や立法府(国会)の承認を経て交わされる「協定」や「条約」のような法的拘束力はない。日本では、内閣に条約の締結権があるが、それは国会の承認を要する。事実、辺野古が「法的拘束力を持つ国家間の約束」ではないことは、かつて外務大臣みずからが国会で明言している。
日米間でグアム協定が結ばれた直後の2009年4月10日に開かれた衆院外務委員会で、米軍グアム移転の前提とされている辺野古基地新設の法的位置づけについて問われた中曽根弘文外務大臣(当時)の答弁は以下の通りだ。
「この協定(グアム協定)のなかで(辺野古の基地新設は)法的義務にはなっておりません。ロードマップという意味では全部関連しているわけでありますが」「……政治的な意図と申しますか、沖縄の米軍再編、さらにはそのなかで負担軽減と、それから抑止力の維持」「そういう意味では(普天間移設や嘉手納以南の返還、辺野古基地新設などが)ほぼ同時に進行していくことが望ましいわけでありますが(後略)」
北太平洋の軍事拠点トライアングル
実は今、防衛関係者、国防族議員や秘書の間で、グアム以外に普天間の米海兵隊を分散する場所としてオーストラリア(豪州)が浮上している。10年5月の日米共同声明が発表される直前の5月19日、日本は豪州と「日・豪物品役務相互提供協定」(日豪ACSA=日本国の自衛隊と豪州国防軍との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府と豪政府との間の協定)を結んだ。日本が米国以外の国とACSAを締結したのは初めてのことだ。
その1年後の11年5月27日、衆院安全保障委員会でこの日豪ACSAに自衛隊法上の根拠規定を設ける「防衛省設置法改定案」が民主、公明の賛成多数で可決された。米軍事作戦への日豪支援を海外にまで広げ、米国の対中軍事包囲網づくりの一翼を担わせるのが目的だ。
世界地図を見ると、沖縄-上海・北京、沖縄-グアム、グアム-豪州は直線距離でおのおの1000~2500キロ。米国防総省が普天間基地への配備計画を進めている新型輸送機オスプレイの航続距離は最大3700キロ。米国にとって3つの地域はちょうどよい中継拠点に違いない。海兵隊の訓練地としても、豪州には6つの砂漠があり、海岸には多数の森林がある。米軍の北太平洋戦略上、沖縄が必須の中継拠点であることは容易に理解できる。老朽化した普天間基地を、最新設備を整えた辺野古の軍港で代替できれば、3拠点に海兵隊をローテーションで訓練回遊させ、有事の戦略展開も遠方への侵略出撃も可能となる。
米国が辺野古に橋頭堡としての軍港建設を計画したのは60年代のベトナム戦争時だが、かつて江戸幕末の鎖国の扉をこじ開けたペリーの黒船が浦賀来航前に経由した地は沖縄(琉球)だ。日本開国以来、米国は沖縄を中国に対する橋頭堡として、変わらず位置づけてきたのではないか。
いずれにせよ、辺野古に対する米国の執念が「北太平洋の軍事拠点トライアングル」を想定したものであれば、日本は沖縄をなおさら取り戻さねばならない。沖縄も本土も、これ以上米国の経済と軍事の覇権に付き合ってはいられないからだ。
※すべて雑誌掲載当時