農政トライアングルの形成

減反・高米価こそJA農協繁栄の基礎であることは先に述べたとおりだ。

この既得権に依存しているのが、農林水産省や農林族議員なのだ。私は、『農協の大罪』(宝島社)という著書のなかで、JA農協、農林水産省、農林族議員の利益共同体を“農政トライアングル”と呼んだ。

これは極めて強力な利益共同体だった。

農協は多数の農民票を取りまとめて農林族議員を当選させ、農林族議員は政治力を使って農林水産省に高米価や農産物関税の維持、農業予算の獲得を行わせ、農協は減反・高米価等で維持した零細農家の兼業収入を預金として活用することで日本トップレベルのメガバンクに発展した。

しかし、最初から農林水産省はこのように堕落した組織ではなかった。

1900年に農商務省に入った柳田國男は、米価を上げて農家所得を上げるのは貧しい工業労働者等を苦しめるので、生産性向上によってコストを下げ農家所得を向上させるべきだと主張した。これは、1961年の農業基本法まで農政本流の考え方だった。

米価を上げると零細農家を温存してしまい、コメ生産の合理化は進まない。食糧管理制度時代、政府によるコメの買入制度を利用してJA農協が自民党農林族とともに行った生産者米価引上げの大政治運動に、農林水産省の役人は強く抵抗した。構造改革を進めようとする彼らにとって、JA農協は味方ではなく敵だった。

しかし、コストを下げるために農家一戸当たりの規模を拡大しようとすると、農地面積が一定の下では農家戸数を減らすしかない。そうなると農業の政治力が減少して天下りのために必要な農業予算が獲得できなくなると考える役人が増えてきた。かつては農協に天下ることを忌避する風土が農林水産省にあったが、今や農協は同省にとって重要な天下り先となっている。

こうして農政トライアングルが誕生した。

減反廃止を潰す自民党農林族

2008年、当時農水大臣だった石破茂内閣総理大臣は、「減反に参加するかどうかは農家の自由とし、参加した農家にだけ補助金を交付する」という減反見直しを提案した。これは後に民主党が実現した戸別所得補償と同じ仕組みだった。

しかし、この微温的な改革案に対しても、米価低落を心配する自民党農林族は大反対して潰した。2013年安倍首相が主張した減反廃止が本当なら米価は暴落する。こんな抵抗では済まない。自民党農林族だけでなく農業関係者すべては、安倍首相の発言がフェイクニュースだとわかっていた。当時は林農相以下農水省は、農協の機関紙である日本農業新聞とともに減反廃止をこぞって否定していた。騙されたのは、農政に素人のマスメディアだけだった。

ところが、今では江藤農相をはじめ農水省自身が減反は廃止したというフェイクニュースを主張している。悪事はなくした方がいいと判断したのだ。情けないことだ。

自民党本部
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今回のコメ騒動で、農林水産省は農業関係者、中でもJA農協の利益しか考えていないことが、一般の国民の目にも明らかになっただろう。