「合意できなかったのは納得いかない」

予算案の衆院審議では、自公両党は、国民民主党との修正協議が財源論で行き詰まると、維新の協力を得る戦略に切り替えた。自公維3党は、高校授業料の無償化拡大や「年収103万円の壁」の見直しによる減税で合意し、修正案は当初案より3400億円減額して可決された。

当初予算案が国会で修正されたのは1996年度の第1次橋本龍太郎内閣以来29年ぶりで、減額での修正は55年度の第2次鳩山一郎内閣以来70年ぶりだった。

自公国3党の税調会長会談で2月21日、公明党が提示した新しい与党案(財務省案)は、年収850万円の上限を設けたうえ、段階的に基礎控除額を上乗せし、非課税枠を最大160万円に引き上げる内容だった。減税額は6200億円で、納税者の8割強が対象となる。

国民党の古川元久税調会長が「年収によって非課税枠に差をつけるのは不公平だ」とし、先の衆院選で掲げた、年収要件なしに178万円に引き上げる案(減税額7.6兆円)に固執したため、会談は2月26日、物別れに終わった。

公明党の赤羽一嘉税調会長は記者団に対し「課税最低限を160万円に引き上げたのは、画期的な改善だ。幅広い所得層まで減税が行き渡るよくできた仕組みを考えたのに、そこが合意できなかったのは非常に残念で、正直言って納得いかない」と無念さをにじませた。

古川氏は「現状では新年度予算案に到底賛成できるものではない。中途半端な妥協はしない」とも述べた。この後、国民党は石破政権への対決姿勢にシフトする。その方が参院選にも有利だと計算したのだろう。

森山、前原、遠藤3氏が水面下の交渉

この自公国3党協議と並行して行われていたのが、自公維3党協議だった。維新の会は高校授業料無償化を訴え、前原氏が鉄道ファン仲間として交流がある首相と1月22日夜に首相公邸で密かに会談するなどした一方で、自民党の森山裕幹事長にパイプを持つ馬場伸幸前代表や遠藤敬前国会対策委員長にも協力を求めた。これを受け、森山、前原、遠藤3氏が1月27日夜に都内で会食し、自民、維新両党の水面下の交渉が動き始めた。

2月17日の衆院予算委員会で、石破首相が前原氏の質問に対し、新年度から国公私立を問わず年間11万8800円の就学支援金の収入要件を撤廃し、公立高を実質無償化するため、25年度予算案を修正する意向を示したことから、自公維3党協議が急速に進んだ。

2月20日には自公維3党の政調会長会談で、高校授業料無償化についての自公案を維新が容認し、社会保険料の負担引き下げも条件に予算案に賛成する方向になった。社会保障改革は3党の協議体を設置し、早期に可能なものは26年度から実施することで合意した。

国公私立を問わない授業料無償化は高校教育の質やあり方を変容させる恐れがある。現に大阪で私立高の無償化によって公立高の質が低下するなど、政策効果を検証する必要性が生じているが、これらは後回しにされた。