※本稿は、大武美保子『脳が長持ちする会話』(ウェッジ)の一部を再編集したものです。
頭と体を同時に働かせる「コグニサイズ」
認知機能を保つ方法というと、「脳トレ」を思い出す方も多いのではないでしょうか。脳トレ博士として知られる東北大学の川島隆太教授が提唱された脳トレや計算ドリル、記憶力ドリルなどが素晴らしいと思うのは、できたかできないかがその場で確かめられることです。「1足す1は?」と問われて「2」と答えられたら、数字と演算子を聞き取る、聞き取った内容を処理する、処理した結果を話す、というすべてのステップにおいて頭の中が正しく動いたとわかります。
買い物などで求められる複雑な計算ができなくなった認知症の人でも、一桁の数字の計算ができることがあります。そのような状態の人にとって、「ここまでならできる」という難易度のものに取り組むことは、自信を取り戻すことにつながります。
国立長寿医療研究センターの島田裕之先生らは、頭(認知課題)と身体(運動課題)を同時に働かせ、心身の機能を効率的に向上させる「コグニサイズ」を提唱されています。
たとえば、数字を声に出して数えながら、3で割り切れるときと、その数字に3が含まれるときに手を叩く、といったエクササイズがあります。難易度を変えることができ、最初は3で割り切れるときのみで手を叩きます。これは比較的簡単です。
次に、3で割り切れるときと、その数字に3が含まれるときに叩きます。これも何とかなるでしょう。
最後に、これに加えて、両方を満たすときには叩かない、というルールを加えると、難易度が上がります。この場合、3、30、33では叩かないのが正解ですが、このルールを、3の後、30や33まで覚えておくのはなかなか大変です。
手だけでなく、足を加えたり、ルールによって身体を動かす場所を変えたりすると、どんどん難しくなります。
歩きながら計算する、歩きながら数える
普段はまだ、自分の認知機能に特に問題を感じないという方でも、コグニサイズに取り組んで、だんだんルールを難しくしていくと、どこかのレベルで、これは難しい、練習しないと時々失敗する、というレベルに当たると思います。自分の認知機能がどのような状態にあるのかが、直感的にわかります。
その他にも、歩きながら計算する、歩きながら数えるといった方法を提案されています。これはまさに複数のことに同時に目を向ける課題で、「注意分割機能」が活用できます。そして、コグニサイズも脳トレと同じように、できたかできないか、アウトプットが一目瞭然で、自覚しやすいのが良いところです。
島田先生はさらに、コグニサイズの考え方を日常生活の中で取り入れたライフスタイルである「コグニライフ」も提唱されています。たとえば買い物ならば、漫然と行うのではなく、スーパーへ出かける前にメニューと購入食材を決め、なるべく徒歩で出かけ、覚えておいた食材をピックアップする「一筆書きショッピング」があります。店の入り口から最終地点のレジまで売り場順に食材を選び、一筆書きをするように店内を巡ります。何度も同じ売り場を通らず、ウロウロしたり逆戻りしたりしないということですね。計画力、記憶力を活用することになります。