街としての「顔」をいかに磨き上げるか
一代限りの街に終わらないためにも、これからの街づくりには、いかにして街としての「顔」を持つかが問われる。それは「海」を売りにする湘南エリアもそうだし、「小江戸」を称する埼玉県・川越市もそうだ。インド人街を形成する東京・江戸川区西葛西もユニークだ。いずれにせよ街づくりの秘訣は、個別に強力なコンテンツを打ち出していくことにあるだろう。
ひところ、熊本県のPRマスコットキャラクター「くまモン」の成功にならい、どの自治体でもゆるキャラを定め、イベントなどに盛んに登場させた。みんなに愛され全国的に有名になったキャラクターが生まれた反面、無理やりつくったキャラの多くはイベントなどでも片隅に追いやられつつある。
あたりまえだが、その地とは何の脈絡もなく、ただかわいいとか、語呂合わせのネーミングになっているという程度のものでは、持続可能性は限りなく小さい。ゆるキャラを否定するつもりはないが、「あそこで成功したから、うちもやる」という相変わらずの発想ではうまくいくとは思えない。
日本全国で人口が増えて成長を続けられる環境下ならばいざ知らず、今どきみんなと同じことをやっていても一向に浮かばれないのである。
海や山などの自然はもちろん、食材(高知のカツオ)であっても酒(山梨のワイン)であっても、それぞれの街がコンテンツを磨き上げ、賛同者を集めていくことが街をさらに成長させていくポイントなのだ。
国内有数の高級住宅街・田園調布
東京・大田区田園調布は、関西の芦屋と並んで、成功した富裕層の住む街として全国的に有名である。
この街の歴史は、2021年に放送されたNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公にもなった渋沢栄一の時代にさかのぼる。1918年、渋沢栄一らの手によって田園都市株式会社が設立された。
同社は、19世紀末にイギリスのエベネザー・ハワードが提唱した、都市と農村を融合した新しい形の都市「田園都市」を実現するため、その翌年に栄一の息子・秀雄らを欧州に派遣した。彼らは欧州11カ国を巡り、ロンドン郊外にある田園都市レッチワースを参考に、日本流にアレンジした新しい街をつくることを構想する。