行動経済学の教訓を投資に活かす
行動経済学は通常の経済学よりも研究対象が幅広く、人々は完璧に合理的に行動するという古典的な前提を否定し、文化的、心理学的、そして他の影響が経済的な判断にどう影響するかを検証する。カーネマンとトヴェルスキーの研究はこうした心の習慣に焦点を当て、人々が非合理な判断や誤った選択をするに至る過程を解き明かした。彼らの最初のコンセプトは「プロスペクト理論」(※1 編集部注)と呼ばれている。これは、今や行動経済学の基本的な理論の一つである。
行動ファイナンスは、行動経済学の一般的な教訓を一つの特定の経済主体に適用したものである。その対象は投資家だ。すなわち、投資家も、他の経済主体と同じように、古典的な経済理論が非合理とみなすような心理的バイアスに支配されると捉えるのである。
投資家は認知バイアスと感情バイアスの影響を大きく受ける。認知バイアスは、一つの経済モデルの失敗や限界、不完全あるいは不正確な情報、そして他の純粋な誤りなどの要因によって生じる。一方、感情バイアスは必ずしも誤りとは限らないのだが、投資家が特定の投資活動で得た喜びか痛みに左右されるもので、起こり得る結果の分析に影響を及ぼす。
※1 「損失回避性」と呼ばれ、人は収益よりも損失を過大に評価し、行動すること。
間違った選択をするのは「認知バイアス」のせい
リチャード・セイラーは、行動ファイナンスの分野で最も注目に値する研究者の一人として、シカゴ大学の行動科学および経済学における「チャールズ・R・ウォルグリーン特別功労教授」として活躍している。心理学と経済学の統合を中心的に推進し、行動経済学への貢献によって2017年ノーベル経済学賞を受賞した。
行動経済学に関する複数のベストセラーの著書であるとともに、フーラー&セイラー・アセット・アマネジメントのプリンシパルとして、行動ファイナンスに関する知見を投資判断に活かしている。2015年には、ハリウッドがサブプライムローン(信用力の低い人を対象にした高金利の住宅ローン)の崩壊を検証した映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』にも出演した。また2008年の著書『実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択』で、共著者のキャス・サンスティーンとともに、「人々はよくひどい選択をする。そして後になってから当惑して振り返る」と書いた。
「我々が間違った選択をするのは、人間としてさまざまな種類のバイアスの影響を日常的に受けているからで、教育、個人の資産管理、健康管理、住宅ローン、クレジットカード、幸福、それがこの地球自体においても、背筋が寒くなるほどの大失敗につながりかねないのだ」