「雨乞い」が必ず雨を降らせる理由
昔の人は干ばつが起こると、雨が降るまでずっと火を焚いたり太鼓を叩いたりして祈る「雨乞いの儀式」を続けたとされています。結果として「雨乞いの儀式をした」あとに「雨が降った」ので「雨乞いが効いた」ということになるわけです。現代人からみると単なる迷信ですが、ある出来事(雨乞いの儀式)が起きたあとに別の出来事(雨が降ったこと)が起きたとき、単なる前後関係なのに、因果関係があると考えてしまうのは人間がよく陥る心理的な間違いの一つです。
昔は医学においても同様の間違いが多々ありました。例えば、19世紀ごろまで広く行われていた「瀉血」もそうです。病気の原因はよどんだ血液だという考え方に基づき、わざと腕などを小さく切って血液を排出することで病気を治そうとしました。病気は瀉血をしようとすまいと自然に治ったり、症状が軽くなったりします。しかし、当時の医者は、自然治癒した症例を「瀉血した」あとに「病気が治った」のだから「瀉血が効いた」と誤認していたのです。
現代では、赤血球が異常に増える「多血症」といったごく一部の病気を除き、瀉血によって病気を治すことはできないとわかっています。瀉血では病気が治らないどころか、かえって害になることもあるのです。有名なところでは、アメリカ合衆国の初代大統領であるジョージ・ワシントンが大量の瀉血をされ、寿命を縮めたといわれています。
普通の風邪に抗菌薬を出してはいけない
現代ではこうした誤解はなくなったと思われるかもしれません。しかし残念なことに、そうでもないのです。昔に比べれば少なくなったとはいえ、今もよくあることです。
例えば、いまだに医療機関で、普通の風邪に対して「抗菌薬(抗生物質)」が処方されることがあります。普通の風邪は細菌ではなくウイルスによるものがほとんどで、いずれにせよ自然治癒するため、抗菌薬は必要ありません。不要な抗菌薬の使用は、ただ効かないだけでなく、胃のむかつきや下痢などの「副作用」、抗菌薬が効かない「耐性菌の発生」といった有害な影響だけをもたらすことがわかっているのに、どうしてでしょうか。
それは「抗菌薬を服用した」あとに「風邪が治った」のだから「抗菌薬が効いた」という誤解をしてしまうからでしょう。普通の風邪は抗菌薬を飲んでも飲まなくても、割と早く自然治癒しますが、それを抗菌薬の効果だと思ってしまうのです。
もちろん、患者さんが誤解するのは仕方がありませんが、病気の専門家である医師までもが誤解するようでは困ります。医師は、抗菌薬が必要な「細菌性肺炎」などの病気でもない普通の風邪に抗菌薬を処方すべきではありません。