「就寝時は紙おむつを手放せなくなってしまった」がんになった59歳・医療ジャーナリストが衝撃を受けた「失禁の苦しみ」(長田 昭二/文春新書) 『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』より #6

「そんな気分は失せてしまう」がん闘病中の医療ジャーナリスト(59)が「女性との性交渉をやめた」ある事件とは?〉から続く

ときには雨水の音が耳に入るだけで漏らすことも…。がん治療をきっかけに「失禁」を経験するようになった、医療ジャーナリストの長田昭二(おさだ・しょうじ)氏。当事者だからこそ語れる、その衝撃の大きさとは? 新刊『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

失禁がもたらす「精神的ショック」の大きさとは…。写真はイメージ ©getty

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退院直前に初の尿失禁

それでも術後の経過は順調だった。手術翌日から点滴台を連れて病棟内を歩き回り、することがない時は病室に持ち込んだノートパソコンでメールを確認したり原稿を書いたりして過ごした。

お腹や尿道に挿し込まれていた管も、今日は1本、翌日は2本……と抜去され、病院生活も次第に快適になっていく。特に最後の1本が抜けて点滴台と体が完全に分離した瞬間は、言葉にできない解放感に浸ることができた。

手術から7日後、待望の退院の日を迎えた。横浜の親類が迎えに来ると言ってくれたが、一人で問題なく退院できそうなので断った。朝食を終えて片付けをして、最後にもう一回歯を磨いていたとき、股間に温かい液体が湧き出るのを感じた。尿失禁だった。

すでにパジャマから洋服に着替えていたが、念のためこの時は下着の中に尿漏れパッドを付けていた。そのおかげで下着やズボンに被害が及ぶことはなかったが、何しろ大人になって初めて「おしっこを漏らす」という悲劇がもたらす精神的なショックは甚大だった。

退院手続きのためにやって来た看護師にいま起きたことを伝えると、特に驚くそぶりも見せずにこう言った。