世界で最も「平均寿命が長い国」
世界の200を超える国や地域のうち、日本は1980年代前半に男女総合の出生時の平均余命(平均寿命)が77年を超えて以降、平均寿命が最も長い(※12)。その後も寿命は延び続け、2020年には男女総合の平均寿命は約84.6年に達した。どの社会でも女性のほうが長命であり、同年には日本の女性の平均寿命は約87.7年で、2位のスペインの86.2年を上回っている。平均的な長寿は、遺伝と生活様式と栄養の要因が複雑に絡み合い、相互作用した結果だ。食生活だけによって長寿がどの程度決まるのかを突き止めるのは不可能だが、ある国の食生活に固有の特徴があるのなら、それは詳しく調べてみる価値がある。
日本の食物摂取には、この国の記録的な長寿に対する食生活の貢献を即座に説明できるような、何か本当に特別なところがあるのだろうか? 日本で多く摂取されている伝統的な食材はすべて、近隣のアジア諸国でたっぷり飲食されているものとわずかな違いしかない。中国人と日本人は、米の同じ亜種(オリザ・サティバ・ジャポニカ)の、栄養面では等価の種類を食べている。中国人は伝統的に、硫酸カルシウム(石膏)で豆腐を凝固させる。一方、日本人は主に塩化マグネシウム(にがり)を使って豆腐を固める。だが、原料のマメ科の穀物を磨り潰したものが、タンパク質を豊富に含んでいることに変わりはない。また、日本の緑茶(お茶)は発酵させていないが、中国の緑茶(ルーチャ)はある程度発酵させてあるものの、栄養価に違いはなく、見た目と色と味が違うだけだ。
「日本人の食」は150年で激変した
日本人の食生活は、過去150年間に激変した。1900年以前に国民の大多数が摂取していた伝統的な食事は、成長潜在力を発揮させるほどではなかったので、男女とも身長が低かった。第二次世界大戦前は緩やかだった改善の度合いは、1945年の敗戦後の食料不足を日本が克服した後、加速した(※13)。
栄養不足を防ぐためにまず学校給食に導入された牛乳の消費量が増え始め、白米が豊富に出回った。日本が世界最大の漁船団と捕鯨船団を築き上げるのに伴って、シーフードの供給が急増した。肉が日本の一般的な食事に組み込まれ、パンや焼き菓子などの多くが従来はオーブン料理の習慣がなかった日本文化のお気に入りになった。所得が上がり、和洋両方の料理が普及すると、コレステロール値や血圧や体重の平均が上がった。それにもかかわらず、心疾患が急激に増えることはなく、寿命は延び続けた(※14)。