「太陽にほえろ!」「あぶ刑事」に続く系譜
おっと、ドラマの中身の話をしなければ。ヒットの法則なんて書くといかにも煽りタイトルっぽいが、ドラマ界における「踊る」の立ち位置を再確認してみよう。
まず、本庁や本店と呼ばれる警視庁ではなく、所轄いわゆる警察署がメインのドラマで、ヒット作を振り返ってみる。
「○○署」と聞いて、中高年の脳内に浮かぶのは「太陽にほえろ!」(1972~1986年、日テレ)だろう。これは「七曲署」という架空の警察署が舞台だ。その響きといい、刑事たちの殉職シーンといい、忘れられない刑事ドラマである。
また、「港署」と言えば「あぶない刑事」シリーズ(1986年~、日テレ)。横浜を舞台におしゃれでクールなバディものとして、人気を博した。神奈川県警に港署はない。これを踏襲したのが湾岸署ではなかったか。
いや、他にも、タイトルにまんま入っちゃう西部署とか本池上署とか、「ゴンゾウ」がいる井の頭署とかもあるけれど、多くの人がピンとくるといえば、七曲署・港署・湾岸署かなと。雑にまとめてみました。
「織田裕二が出演しない」ゆえの展開
もうひとつ、90年代の刑事ドラマを俯瞰してみよう。バブルがはじけた後もしばらくは愛だの恋だのが連ドラ界を席巻していて、刑事モノは下火だった印象がある。下火というか、2時間サスペンスドラマがまだ大量に制作されていたため、刑事モノ・警察モノはそっちの枠で埋まっていたわけだ。しかもド直球の刑事モノというよりは、鑑識班や監察医など、あの手この手で新奇性を探り始めた時代でもある。
昭和の名残としては、名刑事が活躍して「さすらったり、はぐれたり、はみだしたり」していた[ちなみにこれは伊藤沙莉主演、織田裕二が共演した「シッコウ‼~犬と私と執行官~」(2023年、テレ朝)で沙莉が放ったセリフ]。お化け長寿ドラマの「科捜研の女」や「相棒」はまだ始まっていない頃の話である。
そんな時代にヒットしたのは「人名タイトル」モノ。田村正和主演の「古畑任三郎」(1994年)、浅野温子主演の「沙粧妙子―最後の事件」(1995年)は、フジテレビがヒットさせた作品である。前者は軽妙洒脱で新しく、後者は猟奇的な事件を扱う流行にのり、主人公が病んでいる珍しさがあった。どちらも新鮮だった。
で、「踊る」はスピンオフ作品にこの流れを汲んでいる。『容疑者 室井慎次』(柳葉敏郎)、『交渉人 真下正義』(ユースケ・サンタマリア)、「逃亡者 木島丈一郎」(寺島進)、「弁護士 灰島秀樹」(八嶋智人)、「警護官 内田晋三」(高橋克実)など。樹形図のごとく広げまくった。
もちろん「織田裕二が出演しない」という背景もあるが、苦肉の策が結果的には警察ドラママニアを喜ばせるキャラ図鑑要素を満たしたのかもしれない。