「#反省会」の再来も無さそう

で、なんでそうなのかというと、初回に一家揃っての夕飯シーンがあり、そこで祖父(松平健)が「困っとんしゃあ人がおったら、何をおいても助けてやる。それでこそ米田家の人間だ」と口にする。

父(北村有起哉)はそれを「米田家の呪い」と言い、祖母(宮崎美子)は「米田家のたたり」と補うが、そんな説明台詞を聞くだけだからまるで腑に落ちない。

この会話になったのには、結の「海落ち」があった。帽子を落として泣いている幼い兄弟を見つけ、飛び込み帽子を拾う。助走をつけて飛び込む結(というか橋本環奈)は可愛いし達者だけれど、いかにも唐突だ。

こちらも朝ドラ歴が長いので、ヒロインが猪突猛進型だと知らせる合図だとはわかる。とはいえ、別に飛び込まなくても描けるのでは?

入学初日に制服が塩水につかった。大変だ。見ている人はみんな思うに違いないが、結は翌日もパリッとした制服で元気に登校。

こういう緩さというか、つっこんでくれと言わんばかりの描写、「#反省会」で盛り上がった「ちむどんどん」(2022年度前期)の線を狙っているのかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。「おむすび」、なんともスッキリしない。

「虎に翼」は上質なエンタテインメントだった

などとついつい辛口になったのは、「虎に翼」のせいだ。初回から何を目指すのかがわかり、エンタテインメントとしても上質だとわかった。

まずは日本国憲法が掲載された新聞を読み、泣いているモンペ姿の寅子(伊藤沙莉)から始め、ナレーションで憲法14条を読み、そこに寅子の司法試験合格(女性初だとわかる)の新聞の切り抜きを映す。

このドラマが「日本初の女性裁判所長」三淵嘉子という人をモデルにしているということを知っていてもいなくても「法の下の平等」がテーマであり、そこに挑んだ人物がヒロインだとわかる。

司法省人事課長(のちに最高裁判所長官になる男、とナレーションが補う)をはさみ巧みに時計を戻し、女学生・寅子のお見合いシーンになる。

寅子はふてくされていて、その事情がまた少し時計を戻して描かれる。父母、兄、弟、のちの夫となる書生、すべての関係性が笑いと共に理解できる。

初回の最後、寅子は「私は女の人の一番の幸せが結婚って決めつけられるのがどうしても納得できないのかもしれない」と語る。「寅子は私だ」の始まりだった。以後、すべてが「今」であり、すべてが「私だ」だった。この“とらつばビーム”を浴びまくった後で見る「おむすび」は、「今」感はもとより全体に薄いと感じてしまう。とは言え、唯一「今っぽい」シーンがあったので紹介する。