勝負を分けるのは「ストーリーテリング」

昨今、ビジネスの世界で聴衆に浸透する話し方として注目されている話法に「ストーリーテリング」がある。

「ストーリーテリング」とは、文字通り、物語で伝えるという話法で、たとえば、誰かに商品を売る際、その商品の性能やスペックではなく、技術者を主人公にした開発秘話とか製造までの苦労話、あるいは、消費者を主人公にし、それを購入することで得られる明るい未来を想像させて共感を得るという話し方だ。

政策で言えば、なぜ、自分がその政策をやろうと思い立ったのかを、データなどを踏まえて論理的に語るよりも、実話やたとえ話などを交えて、「なるほど、そうだ」と聞き手の感情を動かす手法である。

これまでの各候補者の出馬会見を聞く限り、「ストーリーテリング」ができていたのは、小泉氏と高市氏の2人である。

「父親になってモノの見方が大きく変わりました」

小泉氏は、9月6日に開いた出馬の記者会見で、いきなり「ストーリーテリング」を用いた。

「私自身、2児の父親になったことが人生の転機になり、それまでとはモノの見方が大きく変わりました。正直、こんなにも変わるとは思いませんでした。自分のことより子どものこと、自分の人生より子どもの未来。子どもたちの未来に責任を持つ政治家として、今、政治を変えなかったら、子どもたちの未来に間に合わない。そんな危機感が募り、今、ここに立っています」

出馬会見でストーリーテリングを用いた小泉進次郎氏
筆者提供
出馬会見でストーリーテリングを用いた小泉進次郎氏

自らを主人公に、子どもを持つ父親として感じた思いを吐露しながら、改革を圧倒的に加速しなければならないと訴えた小泉氏の話法は、これまで揶揄され続けてきた「中身がない小泉構文」とは全く異なるものだった。小泉氏の「ストーリーテリング」はさらに続く。

「誰かの評価より自分の気持ちに素直に生きられる国にしたい」

「出番さえあれば能力や個性を発揮できるのに、ベンチに座らせたまま、試合に使わない……。今の日本に1人の人材もおろそかにできるゆとりはない」

これらの主人公は、思うように生きられない人や力を発揮できずにいる人たちだ。この言葉を聞いて、筆者は、小泉氏の外交手腕や経済対策などには「?」がつく部分があるものの、「小泉劇場の再来。これで1歩も2歩もリードしたな」と感じたものだ。