「彼女が有色人女性であるからだ」

さらに辞職したスタッフの告発から浮かびあがるハリス像は、よき上司とは言い難い。

2021年、『ビジネス・インサイダー』誌はハリスの地方検事時代、州司法長官時代、上院議員時代の元スタッフ12人に接触した。多くが匿名を条件にインタビューに応じ、スタッフとの電話で望んでいた答えが得られないと電話を一方的に切るなど、スタッフに緊張感を与えるハリスの振る舞いについて証言している(*6)

同時期に政治誌『ポリティコ』がハリスの関係者22人にインタビューを行ったが、そのうち一人はハリスの事務所について、「健全な環境ではなく、人々はしばしば不当な扱いを受けていると感じている」と証言している(*7)

もっともハリスの評価については、女性、とりわけ有色人女性のリーダーの手腕には、殊更に厳しい目が向けられるというジェンダーバイアスや人種の問題も考慮する必要がある。

元スタッフの中にも、ハリスが部下に求める仕事の基準は高いことを認めつつも、その他の有力政治家と比べて格別に厳しいともいえず、ハリスの資質やリーダーシップに疑惑や批判が向けられやすいのは、彼女が有色人女性であるからだと擁護する者もいた。ハリスが過去30年間のどの副大統領よりも支持率が低いという話についても、彼女がもし白人男性だったらここまで厳しい眼差しを向けられたか、問うてみる必要があるだろう。

「女性」が強調されなかった指名受諾演説

大統領候補になってからのハリスのエネルギッシュな選挙活動、党大会での堂々とした演説は、つい最近までハリスにつきまとっていたネガティブな雰囲気を一掃した。

今やハリスは、バイデンの下で潰えかけていた勝利の可能性を呼び戻した「救世主」とすらみられている。ハリスが体現する明るさやエネルギーは、トランプとバイデン、どちらの高齢男性候補にもよきアメリカの未来を見いだせないでいた国民の心を捉えている。

2024年の米国の選挙の缶バッジ
写真=iStock.com/Elena Sunagatova
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もっとも、アメリカ初の女性大統領に挑もうとしているハリスだが、大統領候補指名受諾演説では、その挑戦に関する言明は慎重に避けられた。民主党全国大会2日目には、2016年に初の女性大統領を目指してトランプと戦い、惜しくも敗れたヒラリー・クリントンも演説を行い、「あの最も高く、最も硬いガラスの天井に、私たちは多くのひびを入れてきた」「そのひびの先に自由が見える」と熱を込めて語り、ハリスを激励した。

「自由」はハリスの選挙キャンペーンのスローガンだ。しかし、ハリス自身の演説には「ガラスの天井」を示唆するような文言は盛り込まれなかった。