なぜ休肝日が必要なのか

お酒を減らすというと、すぐに思い浮かぶのが「休肝日」でしょう。多くの方が、健康診断の肝臓に関する数値を気にしながら飲んでいます。肝臓の解毒作用に関与するγ-GTPの値が正常範囲なら、「肝臓は元気なんだからこのまま飲み続けても大丈夫♪」「数値が悪くないならお酒を減らさなくてもいいんじゃない?」と一喜一憂しています。

実は、肝臓はもともと修復機能が高い臓器で、毎日飲酒していても少量であればそれほど傷むわけではありません。ではなぜ、週に1日か2日、お酒を飲まない日を作ることが大事なのでしょう。

お酒を毎日飲んでいると、脳の報酬系と呼ばれる神経系が刺激されます。飲酒でこの報酬系が満たされると、「楽しい」「気持ちいい」「幸せだ」といった感覚が引き起こされます。すると脳はしだいにこの感覚を記憶し、もっと刺激を求めるようになるのです。

よく冷やしたおいしい日本酒
写真=iStock.com/taka4332
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長い飲酒習慣の中で「だんだん酒量が増えてきた」というのは、脳の報酬系が「もっと! もっと!」と刺激を求めることによって起きた現象と考えるのが妥当です。

あるいは、迎え酒のように「飲まないと気持ち悪いので飲む」というのも、アルコールの刺激が切れてしまったために起こる感覚です。お酒を飲むと気持ち悪さがすっと解消されるので、また飲む。この状態になると、かなりアルコールに対する依存性が高い状態と言えます。

本当は脳を休ませることが大事

脳の報酬系には多種類の神経伝達物質があり、それぞれが複雑に機能しています。少し専門的になりますが、飲酒量と脳内メカニズムの関係について、ショウジョウバエをモデルに行った東北大学の研究を紹介しましょう。

この研究では、アルコールを与え続けたハエと与えなかったハエを比較して、脳内のメカニズムを観察しました。アルコールを与え続けたハエは、脳内で快感を伝達する神経物質であるドーパミンの受容体が増加していたのです。

【図表2】脳がアルコールに依存していく仕組み
減酒セラピー』より

生物がアルコールを摂取することによって快く感じるのは、脳内の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するためですが、この報酬系の中で中心的な役割を果たしているのがドーパミンです。アルコールのみならず、麻薬や覚せい剤などの依存を形成する薬物にはドーパミンの放出や受容を活発にする作用があり、そのためこれらの摂取・使用が快感をもたらします。

この研究でアルコールを与え続けられたハエは、ドーパミン受容体の増加と同時に、アルコールに対する嗜好しこう性が高まりました。つまり、脳の報酬系が乱れ、アルコールの摂取を好むようになったのです。人間もこれと同じです。お酒を飲み続けていると脳の報酬系が刺激され、ますますお酒が欲しくなります。

ですが、飲酒による刺激が途切れるとこの興奮が元に戻り、脳の報酬系は正常化します。週に1日か2日だけお酒を飲まないことで、脳への刺激をマイルドに保つことができるのです。

だから、肝臓を休ませる「休肝日」も大切ですが、お酒をおいしく飲み続けるために意識してほしいのは定期的に「脳を休ませる」こと。大切なのは「休脳日」なのです。