山下勝氏は組織経営論の分野で研究を行う。著書『キャリアで語る経営組織』(共著)の中では、上司、部下の関係も含めて、企業組織における適切なキャリア開発を提言。気鋭の研究者は、上司と部下のコミュニケーションにどう切り込むのか。

口うるさい上司から自由になる

青山学院大学 准教授 
山下 勝氏

組織論の見地から言えば、部下に口うるさくガミガミ言うことは、上司の役割です。しかし限度を超えて上司が口うるさいとなると問題です。

ただ上司側にも同情すべき事情があります。現在、日本の職場では上司がマネジメントを全うしにくい。純粋な管理職でなく自らも動くプレーイングマネジャーであることが多いからです。

また従来の経営管理論では上司1人に対して部下は7~8人が適正とされていましたが、メールなどの情報ツールの発達で現在の管理職は10~20人の部下を抱えることも可能という意見もあります。しかしこの議論は大いに疑問です。

確かに業務上の報告・連絡ならメールでも可能です。しかし本来、上司が部下に仕事を与えるときは、部下と話し、様子を観察して仕事を割り振る必要がある。メールではこの部分がフォローできません。ホウレンソウの相談の部分がすっぽり抜けてしまうのです。

得られる情報量から言えばメールは貧弱で、最も豊かなのは直接顔を突き合わせた関係です。情報量の豊かさはメディアリッチネスと呼ばれています。メディアリッチネスが乏しいメール頼みでは十分なマネジメントはできない。メール頼みで部下の人数も増えた結果、ベースとなる上司と部下の人間的な信頼関係が構築できていないのです。