毎日が憂鬱になってきた

入居者のほとんどが元会社役員などで金を持った年寄りです。それに3分の1はほぼ寝たきりで、3分の1が車椅子か杖が手放せない。残りの3分の1が健康な高齢者。ぼくが入居者のなかではもっとも健康だったかもしれません。だから、共通の話題はないし、話したとしてもこれまでの人生が違いすぎて全然面白くない。

施設では定期的にイベントがあり、入居者みんなでバスに乗って「イチゴ狩り」や「芋堀り」をするんです。でも「オレは行かないよ。ひとりでいいよ」という話になっちゃう。

一番許せなかったのが、慰問にきたバンド。彼らはベンチャーズしか弾けなかったんですよ。「よりによって俺の前でベンチャーズを演奏するか」って。もう嫌になっちゃった。

そんなことが一事が万事で、入居者とも話さないし、イベントにも参加しないから、部屋にこもりがちになっていって、毎日が憂鬱になってくる。

ドラマ「やすらぎの郷」では、元脚本家や俳優、ミュージシャンたちが、夜な夜な施設内のバーに集まって知的に語り合う、そして時には恋もする。あんな環境があるのではないかと期待していたんですが……。

平野悠さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

死ぬまでに1億円がかかる計算

――そもそもその高級老人ホームにはいくら支払ったんですか?

【平野】我が「やすらぎの郷」の入居金は人によって違いますが、ぼくの場合は6000万円。それを払ったら終わりではないんですよ。

共益費や基本サービス料などで毎月20万円弱が徴収される。個人的な支出として生活費や交通費、電気水道料金、酒代などがあるので、全部で毎月35万円くらいの支出になっていました。もし入居した77歳から90歳までそこで生きていれば、入居金と合わせて1億円はかかっていた計算になります。あそこでは死ぬまでに1億円かかるわけです。

さらに追い打ちをかけたのが、過疎地域の現実です。ぼくは元気だから、鴨川でロック喫茶や音楽喫茶でもやろうかと考えていたんです。

でも町には喫茶店すらない。若者がいないから商売にならない。いや、若者だけではなく、町を歩いても人に会わない。しかもぼくらは地域住民から嫌われているから、仮に店を開いても地域の人はこなかったかもしれません。