彼女の放蕩ぶりに、地面師たちが動いた
おそらく地面師たちは、彼女の変化を知り、そこに目を付けたのだろう。詐欺師たちはいったん動きだすと素早い。
くだんの土地は、すでに14年4月18日と8月12日付で、住民税の滞納のため東京都の港都税事務所から差し押さえを食らっていた。不動産業者が地上げに手を焼いていたマッカーサー道路西側の一角で大きな変化が見られたのは、その翌一五年の春先のことだ。
土地登記によると、4月10日、とつぜん新橋5丁目に住んでいたはずの所有者、高橋礼子が大田区大森南3丁目のワンルームマンションに引っ越したことになっていた。
地主になりすまし、わざわざ大田区に住所移転したワケ
それは、地面師たちの下準備だった。ちなみに住民票の移動には、届け出る大田区役所に対し、本人確認のための身分証明が必要になる。そこをクリアーするため、地面師たちは得意の偽造パスポートを使った。なぜ、そんな面倒なことをするのか、先の初村が謎解きをしてくれた。
「高橋礼子さんになりすますためにパスポートを偽造して大田区に住所移転するぐらいだったら、新橋の住所で印鑑証明をつくりなおしたほうが早いように思えるでしょう。けど、地面師たちはしばしばこういう手順を踏みます。その理由は別のところにある。住民票を大森に移したのは、住民登録と土地取引の自治体を別々にしたかったから。新橋の住所のままだと、どちらも港区内の処理になる。滞納している住民税の問題や近所の目があり、どこかで足がつくのを恐れた。地面師たちの常套手段で、そのためにわざわざ住所を港区ではなく、大田区に移したのではないかな」
高橋礼子は、住民票が移ったあとにも、新橋5丁目の自宅付近で近所の住人に目撃されている。住所移転は明らかな詐欺工作の一環だった。