若年層を投票所へ連れていった石丸手法

石丸手法が、もともとTikTokなどのショート動画をエンドレスに見続ける習性のある若年層にリーチするのは時間の問題だった。

ネットでその姿をやたらと目にする。なんだか祭りが起きている。政治に興味はないけれど、具体的な政策とかはよくわからないけれど、「若くてスマートそうなおじさんがスパッと言い放って勝つ姿」を見るうちに、“石丸推し”に参加するのはポジティブなチョイスであると感じるようになる。素直でちゃんとした賢い子ほど、そういう気持ちになる。

スマホアプリをいじる指先の延長で、社会参加というよりもイベントやフェス参加のような気軽さで、街頭演説に行く。動画を撮影して、自分も「行ってみた」となんらかハッシュタグをつけて、ちょっと賢そうで社会貢献っぽいムーブメントに参加する。(初めての)投票だってちゃんとして、投票の証拠画像にハッシュタグをつけて投稿する。

そこまでが“石丸推し”のワンセットだ。石丸手法は、若年層を本当に投票所へ連れていった。

さらにYouTubeをこれまたエンドレスに見る生活習慣があり、特に社会のメインストリームに対してなんとなく反感やルサンチマンを抱く中高年も、ふと気になって動画を見続けるうちに典型的な「あなたのニーズに最適化した」情報のフィルターバブルに厚く囚われ、きれいに石丸推しへと巻き取られた。

石丸氏に“巻き取られた”中高年男性たち

そして散歩がてらイベント参加のように熱心に街頭演説へ足を運び、彼に期待し心酔し、石丸氏が敗北後のメディア対応で批判を浴びるようになると、批判者をネットで攻撃して忠誠心を示した。これは中高年男性に顕著だ。

行動心理や巻き取られるメカニズムは若年層と似ているところが、彼らがある種若いことの表れでもあるのだろう。

つまり、社会に出て20年や30年経ってなお「自分はメインストリーム側ではない」ところにアイデンティティーのある人々。すでに長らく社会人でありそれなりのポジションもある自分は、現在の社会を作ってきたメンバーのはずだが、「自分の側ではない人々」に対する不満や将来への漠然とした不安を表明したい、しかもそれを投票行動で表現する、素直で感受性の高い人々。

公園でスマートフォンを使用している男性
写真=iStock.com/kokouu
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