俳優デビュー時の印象は「近寄りがたいほどの天才子役」

伊藤沙莉が連続ドラマ『14ヶ月 妻が子供に還っていく』(03年、日本テレビ系)で俳優デビューしたとき、まさに天才子役の出現といった印象で、ちょっと近寄りがたいほどの才能やムードを発していた。原作者の市川たくじは、DVDのインタビューで「存在感がある」と褒めている。もうひとりの子役・菅野莉央と並んで「大人の役者がたじたじ」となりそうなほどの演技で、このふたりの「2ショットを生み出したのは価値ある」「年季の入った女優さんの一騎打ちのようだ」と大絶賛だった。ほんとうに、このふたりは神童のようであったのだ。

『14ヶ月』で伊藤が演じたのは、単なる等身大の9歳の少女役ではない。心は大人、身体は少女という難役であった。

主人公・裕子(高岡早紀)の友人・ナツキは若返りの薬を開発中に9歳の子供に若返ってしまう。そして、その薬を裕子も飲んでどんどん若返ってしまう。はたして元に戻れるのか? という寓話的なドラマだが、若返ったナツキを演じる伊藤の存在感はファンタジー感がなく妙に乾いている。

当時9歳の伊藤は、当然、少女なのだが、セリフまわしがいまと変わらない。ちょっとかすれた声も、わりとぶっきらぼうな言い方も、表情をあまり変えない冷めた顔つきも口ぶりも、小さく寄せた眉間のシワもすでに21年前に確立されていた。まるで、いまの伊藤沙莉が少女の伊藤沙莉に憑依しているようなのだ。子役は大人に演技を教わるから、大人びた口調になりがちとはいえ、ここまで個性を作りあげていたとは末恐ろしい。

子役のときに凄まじすぎると、成長したときに、ありがたみがなくなってしまうというのか、子役から大人にうまくシフトする俳優は多いとはいえない。だが伊藤沙莉はそのジンクスにはまらない。媚びない、大人びた子供のような、どこか妖精のような、性別や年齢に囚われていない唯一無二の存在になった。

『ミステリと言う勿れ』の主人公の言う“別の種類の生物”的な存在として。子供でも大人でも、いつだって、「私は私」なのだという覚悟を、9歳のときから備えていたのだ。これからもっとおばさん、そしておばあさんになっても、伊藤沙莉には何もこわいものはないだろう。

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