石丸氏の演説は、まるで「アイドルのライブ」
一方、東京駅前で行われた石丸氏のマイク納めは政治家としては非常に異質なものだった。
なぜなら、都政の具体的な政策についてまったく語らなかったからだ。
石丸氏は最初に選挙戦で応援してくれた人々への感謝を述べ、銀行に入行して初めて東京駅を訪れた際の思い出、お世話になった上司とのやりとり、ニューヨークなどの海外で仕事をしてきた経歴について語り、安芸高田市の市長になる決断をしたことについて振り返った。
そして、最後に「私たちは変われるし変えられるんだと全員で東京を動かして、そして日本を動かしてみせましょう。全国民の期待に、そして次世代の期待に応える、かっこいい大人の姿を見せつけましょう」と述べて演説を締めくくっている。
筆者はこの演説を聴いた際、選挙戦における候補者の訴えというよりも、まるでアイドルのライブにおける挨拶のような内容だと感じた。
もちろん、石丸氏にも「東京都が担う給食費の無償化」などの具体的な政策はあるのだが、そういった細かい内容を訴えかけることはせず、聴衆の共感を得ることに全精力を注いだ演説だったと言えるだろう。
選挙演説としては蓮舫氏のほうが一般的であるが、石丸氏のほうが無党派層を中心に幅広く浸透したことは選挙結果が示している。
「石丸構文」としてネタ化された理由
政治不信がはびこる今の日本では、細かい政策よりも、いかに「政治を変えてくれる」と人々の共感を得るような演説ができるかこそが重要になっていると言えるだろう。
もちろん、石丸氏の手法には危うさもある。
共感で集めた支持は、対応をひとつ誤れば一転反感にもつながりやすいからだ。
選挙後には、石丸氏による開票番組への取材対応が「石丸構文」としてネタ化されてしまったが、これは石丸氏が共感によって多くの支持を得ていただけに、取材へのぶっきらぼうな対応の仕方が一気に反感を買ってしまった結果だとも考えられる。
ある意味、人の感性や感情の移ろいやすさを示しているとも言えるだろう。
また、このような政治手法は「劇場型」や「ポピュリズム」だと批判されることも多い。
ただし、程度の差こそあれ、選挙において多くの人から興味関心を引き、その心にいかに自分のメッセージを届けるかはすべての候補者が考えなければならないことでもある。
いかにマジョリティーに訴えかけるか、多くの人から共感を得るか、その視点が蓮舫氏には足りておらず、逆に石丸氏は極端なまでに徹底した、それが今回の結果を生み出したと言えるだろう。