人気のテレビ番組

受刑者の居室にはテレビがあって、録画放送が月〜金は18時〜21時まであり、土日祝日はそれに9時〜11時が加わる。番組は刑務所の教育部門が選んでいるのだが、番組選択への受刑者たちの不満は根強い。

大食いとか、芸能人が食べる料理の皿の順を当てるとか、とにかく食い物番組が異常に多いのだ。工場のみんなからは、「受刑者だと思ってバカにするなよ」との声が渦巻く。ディズニーアニメが続いた時は、「俺たちを小学生と思ってんのか!」との声が上がった。

ここでは大河ドラマも朝の連ドラもない。ブラタモリもNスペもないし、チコちゃんに叱られることもできない! ストレスに溢れた服役生活だから、時に息抜きできる番組を見たいこともある。「マツコの知らない世界」とかね。

1本の映画の一つのセリフが人生を変えることや、ドキュメンタリーを見て職業を決めることだってあるのだ。挫折からの復活劇に勇気を得たり、美しい自然で心を穏やかにしたり、人情ものに涙を流したり、歴史に人間関係を学んだり……。

そういう番組を見せて立ち直りのきっかけを提供することが、テレビ放映の本来の目的だと思うんだけどなあ。

矯正指導日に放送される視聴覚教材が「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」のような社会の最新情報の紹介番組だと、みんなは喜ぶ。受刑者たちが教養的番組をいかに渇望しているかということだ。僕たち受刑者にはチャンネルを選ぶ権利がないのだから、テレビ番組が生活に及ぼす影響をよく考えて、教育に資する番組を流してほしい。

レトロなテレビ
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大不評だったTBS​の報道番組

テレビの話が出たついで。同衆たちが「もうあの番組は見たくない」と槍玉に上げるのが「サンデーモーニング」だ。日曜の放送が月曜夜に録画で流れると、決まって次の日の休憩時間に誰かが「昨日も酷かったなあ」と口火を切る。なにも「反安倍」だから指摘しているのではない。

この種の情報番組には、何かしらの政治的傾向がついて回る。週末に放送される同種の番組は10を超えるのに、なぜ「サンデーモーニング」という、それらのなかでも極めて政治性が高い番組だけを放送し続けるのだろうか。

河井克行『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)
河井克行『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)

先輩によると、3、4年前から変わらないという。社会への多様な見方、考え方を養うのも刑務所の役割だ。受刑者の思考を固定化しようとしているとの疑念を抱かれることは、不偏不党の観点から慎むべきではないだろうか。

もう一つ、同衆から「あれもおかしいですよね」と言われる番組がある。受刑者が全員潜り抜けなければならない新入訓練の教育プログラムとして視聴する、NHK総合の「たったひとりの反乱」という番組だ。

番組内容そのものは心を強く揺さぶられるもので、僕も何度も泣いてしまった。ただ問題は、進行役がれいわ新選組代表の山本太郎参議院議員であることだ。いくら収録時にはタレントであったとしても、いまはれっきとした国政政党の代表だ。法務省は与野党に関係なく、政治的中立性を遵守することに敏感になるべきだと思う。