睡眠薬は眠くするだけ スッキリ起きられない

睡眠薬への期待といえば、「睡眠薬を飲んでも翌朝はスッキリ目覚めたい」という要望がとても多いです。こういう意見を聞くたびに、変な話ですが、私は睡眠薬に同情してしまいます。夜はしっかり眠くなり、それでいて翌朝は眠気が残らずスッキリするという、正反対の作用を同時に期待されるというのは矛盾した話です。本来、睡眠薬ができるのは人を眠くすることだけ。その作用が朝には消えていてほしいというのはなかなか二律背反した命題で、両立させるのは難しい。

では製薬会社がどうやってこの無茶な要望に応えているかというと、薬の作用時間を短くすることで対応しています。昔は効果がダラダラと長く続く薬が多かったのですが、そうすると、「持ち越し効果」といって、朝起きたときにまだ薬が抜けきっておらず、ボーッとすることがよくありました。最近はそれがないように、作用時間を極端にギュッと縮めた薬がほとんどです。たとえばメラトニン受容体作動薬などは「超短時間作用型」なので、すぐに入眠できても、夜中に目が覚めてしまうこともありえます。

つまり、しっかり眠くなるけれど、時間が経ったらスパッと効き目がなくなってほしいというのは、人間の薬物生理、薬物動態からいってほぼ無理です。睡眠薬を飲んだ翌朝のちょっとボーッとする感じは、ある程度は仕方ありません。睡眠薬の服用中は日中の居眠りに気をつける必要があります。

こういうと、「やっぱり睡眠薬は怖いですね。それよりサプリや栄養補助食品などのほうが安全ですよね」と言われますが、これらはあまり効き目が強くないようにできています。ということは持ち越し効果もあまりないので、パッチリ目が覚めます。

ただ、眠くなるかどうかといえば、そこは効く人と効かない人がいます。万人に確実に効いたら薬になってしまうので、興味のある人は試してみるしかないでしょう。

それ以外にも眠くなるようなものは、けっこうあります。代表的なのがお酒。ほかにもリラックス効果があるとして最近流行っているのが、大麻から危険な成分を除いたCBD(カンナビジオール)です。これらは人をリラックスさせる効果はあるので、リラックスできないことが不眠の主な原因という人には効果があるかもしれません。

眠れない女性
写真=iStock.com/PonyWang
不眠症の原因は人それぞれ。睡眠薬には「正しく」頼ろう(※写真はイメージです)

一方、お酒というのはアルコール中毒で亡くなる方がいるように、大量に飲むと呼吸中枢を抑制し、場合によっては呼吸が止まる物質です。もちろん急性アルコール中毒の状態になるまでには、相当強いアルコールを大量に飲まなければいけません。ただ問題は、お酒は薬ではないため、用量が決まっていないこと。だから、「ここまではいい」「ここからはダメ」といったことがなかなか言いづらいのです。「お酒と睡眠薬は一緒に飲まないでください」としか言いようがありません。

風邪薬や頭痛薬など眠くなる成分の入った市販薬と睡眠薬を併用するのもやめたほうがいいでしょう。たとえばずっと睡眠薬を服用している人が、どうも風邪気味なので、いつもの睡眠薬と一緒に市販の風邪薬も飲んだとしましょう。そのあとすぐに「ちょっと今から車を運転してコンビニに行ってくる」というのはやっぱり危ない。その後、記憶が飛ぶというようなこともありうるので、大事な商談があるときなども服用はやめたほうが無難でしょう。

なぜ記憶が飛ぶかというと、脳の記憶をためる部分(海馬)は機能停止したのに、一方では脳の会話を司る部分はまだ動いているというように、脳の部分によって機能停止のタイミングがちょっとズレることがあるからです。お酒を飲んで普通にしゃべっていたのに途中から記憶がないという人がいますが、それはこういう理由からです。

私たちのような脳神経内科の人間にとっては面白い現象ですけれども、非常に危ない現象でもあります。薬の作用や飲み合わせを覚えて判断するということができないと、やっぱり死に直結することがあるのは事実です。