保険をかけてやってくれるんだったら
声優志望の嶋田亮さん(須賀川桐陽高3年生)。実力勝負の厳しい世界だと嶋田さんは自覚している。食いっぱぐれたらどうするんですかと訊くと、嶋田さんは「そのための大学です」と答えた。
「めざしているのは明治大学、もしくは早稲田大学です。その2つは、名前が通っている演劇サークルがあるんです。もともと俺は、演劇学科とかを狙ってたんですけど、それだと親の許可が出ないんですよ。一か八か、当たるか外れるかの声優という仕事だと保険効かないんで。だったら明治とか早稲田で、演劇とは違う学部に行って、演劇のほうはサークルで。だから親の許可が出たのも、その2校なんです」
嶋田さんの大学選択の作戦の立て方は、嶋田さんと親御さんとの間で、すでに合意が成立しているということですね。
「はい。親にももう認めてもらってます。『そこだったら、まあ、べつにいいだろう』と。保険をかけて、ちゃんとそういうふうにやってくれるんだったら、やりたいならやればいいって、親父も言ってくれてますし。俺も最初は絶対反対されるだろうと思って、正直、高2の途中ぐらいまで言わなかったんですけど」
明治もしくは早稲田に入って演劇系サークルに参加する、ということは、県境を越えて東京都に入ることは前提ということですか。
「はい。声優っていう仕事に就くためには、こっちのほうにいても何もないんで。東京のほうに行くしかないんです。東京に行くことにためらいとか、そういうものはないですし」
先ほどオーディションの話が出ました。ということは、実力以外に、ディレクターとの相性のような「運」も必要になる世界ですか。
「大事だと思いますね。そういうのもけっこう関わってくると思う」
運、強いですか。
「なんか、いまがすごい強いです。雑誌懸賞で、全国50名のカバンとか当たった(笑)。今年、運来てるのかなって」
ここまでの嶋田さんの進路選択の話の中には教師が登場していない。高校生たちが就こうとしている仕事の内容を、そのための進路を、教師たちはどこまで知っているのか。これは、この連載の中で何度も記してきた問題だが、声優という仕事はその際たる例なのではないか。
「だれも知らないですよ、自分で調べるしかないです。だって学校の先生、こんなの知らないです」
となると、先生にやってほしいことって何かありますか。
「やってもらいたいことですか? 余計なことは言わないで見ていてほしい。先生方は『声優にはなれないだろう、難しいだろう』『もうちょっと違うのに変えたほうがいいんじゃないか』と、散々そういうことしか言ってこないんで、だったらべつに言ってほしくないんですね。自分でいろいろ考えて結論を出したんで、わざわざそれを他人に言われたくないんです。駄目だったら駄目で、自分で責任を負いますし。そんなの、俺の人生なんだから、勝手にさせろっていうのがあって。そりゃ成功率としてはすごい低いんですけど。だからって、どうして他人に言われなくちゃいけないんだって」
嶋田さんが言った「自分で調べるしかないです」ということばがヒントになった。他の3人にこう訊いてみよう。震災をきっかけに知って、調べてみた職業、何かありますか?