ドラマの家政婦は「肌の色の濃い黒人」ばかりだった

近年、グローバル・サウスの台頭が話題だが、その多くの国はヨーロッパ列強の植民地だった過去を共有している。20世紀に独立した多くの国は今なお社会・経済的なシステムやメンタリティにおいて植民地主義の後遺症を負っている。独立してなお、資源を欧米のメジャーに握られているアフリカの国々がわかりやすい例だ。

グローバル・サウスの国や人々が健全に成長する上で欠かせないのが真の脱植民地化であり、西洋の経済的衰退に反比例するように今世紀に入って脱植民地化を唱える声は高まっている。

ブラジルにも配慮の欠如による人種差別的な表現や創作がないわけでなない。むしろ多かったぐらいだ。「ノベーラ」と称される大手テレビ局の連続ドラマでは、登場する家政婦は肌の色のより濃い黒人系が長らく起用されてきた。

しかし世界的なアファーマティブ・アクションの潮流を受けて、コンテンツや広告の産業での社会的弱者に関する表現は目に見えて改善されている。

多人種が社会を形成するからこそ、近年は人種問題に対してよりセンシティブだ。黒人に関して言えば、ブラジルはナイジェリアに次いで世界で2番目に黒人系人口が多い国だ。アメリカに端を発したBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動はブラジルにも飛び火し、近年、黒人系に対する配慮を唱える声が大きくなっている。

エレベーターには「差別には罰金」の表示

ブラジルはヨーロッパ人の入植以来繰り返された混交により国民の人種構成が複雑だ。現在、仲間内の冗談で人種的特徴をからかうことがあっても、オフィシャルな場では人種や肌の色を理由とした差別はご法度だ。

筆者の暮らすアパートのエレベーター内にも「差別は罰金」と明記されている
筆者の暮らすアパートのエレベーター内にも「差別は罰金」と明記されている(筆者撮影)

身近な例を挙げると、ここサンパウロでは州の法令としてエレベーターの使用において、民族、ジェンダー、肌の色、出自、社会環境、年齢、障害、感染しない病気を理由とした差別を禁止しており、違反したものに対しては罰金が課せられる。アパートのエレベーターなどで、この法令がよく掲示されている。

これは過去に、家政婦や作業員が同じエレベーターを使うことを嫌う風習があったからだが、現在はこのような掲示によりエレベーター内はもとより、いかなる環境でも「差別はよくない」と意識されるようになっている。

ブラジルはこれまでの歴史を踏まえて、「血」や「家」が原因の差別をなくし、より「個」を尊重する社会へと向かって進んでいるのだ。