領海警備の大きな変化

2012年の尖閣国有化を機に、尖閣周辺海域へ中国公船が頻繁にやって来る事態となりました。私はこの時、警備救難部警備課領海警備対策官を務めていて、まさに領海警備を担当する役職についていました。

当時、警備救難部長だったのが初めて現場から長官に就任した佐藤雄二さんで、すぐに現場に行くよう指示を受けていました。ヘリコプターで船に降り立ち、まさに丁々発止やったのです。以降、尖閣をめぐる中国公船との応酬は今日まで続くことになります。

――それまでは海難事故の対処や救助がメインだった海保のイメージも変わり、領海警備がクローズアップされることが多くなっています。

【奥島】領海警備の質自体も変わってきた面があります。以前は、外国船といってもロシアなどの密漁船や北朝鮮の工作船に対する対処が主でした。

ロシアの密漁船は漁業利益を得るために、一個人が日本の海洋権益を侵したという性質のものです。

北朝鮮の場合は若干「一個人の行動」とするには疑問もありますが、それでも2002年の日朝首脳会談で金正日総書記が前年の工作船事件に関し「一部の者が行った行為、今後起こさないよう指導する」といった旨の発言し国家の関与を否定しました。つまり、ロシア・北朝鮮の違法行為は、あくまでも個人の意思であり国家意思に基づくものではなかったのです。

ロシア・北朝鮮と中国の違い

片や中国の場合はそうではありません。まさに「中国が日本に対抗する」という国家意思として船を尖閣周辺に送り込んでいます。ここには大きな違いがあり、個人の意思でやってくる船と国家意思を背負った船では、現場での対処も大きく違ってきます。

具体的には、ロシアの密航船や北朝鮮の工作船の場合、我々は法執行機関として犯罪者を取り締まる手法で対処することができるのですが、中国の場合はそうではない。「海警」と呼ばれる公船なので、国際法上、沿岸国の管轄権から免除されているのです。

そのため、領海侵入に対しできることは「退去要求」と「保護権に基づく必要な措置」だけ。

「出ていけ」というだけでは簡単に出ていきませんし、「必要な措置」の具体的内容について国際法上の解釈は確立していません。

当然、船をぶつけて沈めたりしたら国際法違反になりますし、公船に対しては、違法漁船などを取り締まるように、立ち入り検査を行ったり逮捕したりすることができないのです。

――中国は国際法の限界などをかなり研究していますね。

【奥島】きちんとした「研究」をしているというより、「自分たちの都合のいいように解釈している」「勝手な解釈を重ねている」というほうが正しいかもしれません。