賃上げムードが高まっていることは確か

日経平均株価は3月決算配当権利落ちの3月28日にも4万円台を維持し、新年度相場入りした。1月4日の3万3288円から3カ月で20%も上げる急伸ぶりだが、それほどまでに株式市場は日本経済の「復活」を見込んでいるのだろうか。

日経平均株価の終値を示すモニター、40168.07円
写真=時事通信フォト
日経平均株価の終値を示すモニター(=2024年3月28日午後、東京都中央区)

3月28日に2024年度の予算が成立したのを受けて記者会見した岸田文雄首相はこう述べた。

「まず賃金が上がる。その結果、消費が活発化し、企業収益が伸びる。それを元手に企業が成長のための投資を行うことで、生産性が上がってくる。そして、それにより、賃金が持続的に上がるという好循環が実現する」「今、我々は、デフレから完全に脱却する千載一遇の歴史的チャンスを手にしています」

安倍晋三内閣以来、10年以上にわたって言い続けながら実現しなかった「経済好循環」を達成すると力強く宣言したのだ。

確かに大企業を中心に賃上げが進んでいる。連合が3月15日に公表した春闘の第1回集計では、賃上げ率が5.28%と1991年以来33年ぶりの5%超えとなった。第1回集計は積極的に賃上げに応じた大企業が多く含まれるので、最終的に全体で5%を超えるかどうかは微妙だが、前年に続いて賃上げムードが高まっていることは確かだ。

物価上昇率を賃上げ率が超えられるかが焦点

だが一方で、物価も上昇を続けている。総務省が3月22日に発表した2月の消費者物価指数は、「生鮮食品を除く総合」で前年同月比2.8%の上昇だった。政府は巨額の補助金を投じてガソリンや電気料金の抑制を行っているから、実態を見るには、その効果が除外される「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数がふさわしいが、これは3.2%上昇している。

中小企業の賃上げは大手並みとはいかないので、この物価上昇率を賃上げ率が超えられるかどうかが大きな焦点になっている。いくら名目の賃金が上がっても、物価上昇に追いつかなければ、消費量を増やすことは難しいから、岸田首相のいう賃金上昇の結果「消費が活発化」することには繋がらない。

今、政府も日銀も歴史的に稀な「実験」を行っている。物価の上昇を許容することで経済好循環が始まる、としているのだ。岸田首相の発言にもそれが表れている。「物価と賃金の好循環を回し、新たな経済ステージに移行する」と言うのだ。新たなステージとは、「賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を、社会全体に定着させ」ることだ、というのだ。