いち早くTSMCの信頼を取り付けた日本

一方、米国のバイデン政権は2022年に成立した“CHIPS科学法”に基づき、インテルに最大85億ドル(1ドル=151円で約1.3兆円)の補助金支給を発表した。また、110億ドル(約1.7兆円)の融資も行い、アリゾナ州などで半導体のチップ製造を支援する。さらに、アリゾナ州でのTSMCの工場建設に、50億ドル(7600億円)以上の追加支援も行うようだ。

欧州委員会も半導体分野の支援強化に動いた。2023年8月“欧州半導体法”を採択し、ドイツ東部のドレスデンにTSMCの工場建設を発表した。主に車載用の半導体(線幅で20ナノメートル台)の生産を計画する。ドレスデンでの投資額は1.5兆円を上回ると予想される。独仏アイルランドに加え、ポーランドにもインテルは半導体の組み立て・検査工場を建設する計画だ。

わが国も迅速に支援策を実施した。熊本県ではTSMCの第1工場が開所し、第2工場の建設も明らかになった。補助金の支給規模全体で米中に引けをとるが、わが国は他の国よりも円滑に補助金などを支給し、TSMCの信頼を取り付けることができた。それは今後の半導体産業の育成に追い風だ。

「チップレット方式」をめぐる技術競争が激化

改革開放以降、中国政府は海外直接投資誘致などにより、時間はかかったが半導体の国産化を進めた。政府の巨額支援で、中国の半導体設計開発、製造などの能力向上の可能性は高まる。SMICはこれまでに確保した海外企業の半導体製造装置などを改良し、回路線幅7ナノメートルのチップの生産にこぎつけた。

今後、中国政府は半導体関連分野の補助金政策などをさらに強化し、米国の圧力に対抗しようとするはずだ。主な方策として先端半導体の強化に加え、中国は汎用型チップの製造技術を駆使し、より高い演算などを行う半導体の製造技術の確立を目指すだろう。異なる機能を持つ半導体を組みあわせて一つのチップのように作動させる“チップレット方式”の重要性は高まる。