ちなみに、参考記録的な意味合いはあるが、戦前に不敗をうたわれた木村義雄十四世名人は八段時代の1930年に平手18勝1敗、香落ち上手で14勝3敗、勝率0.889という数字を残している。現在とは対局環境がまったく異なるので同列には扱えないが、その時代における傑出度としては、現在の藤井に勝るとも劣らぬ存在と言えそうだ。

期待がかかる「最年少永世称号」の更新

年度勝率記録以外に藤井へ更新の期待がかかる、過去の大棋士の記録というと、実現が近いところでは中原の「最年少永世称号」だろうか。中原は1971年の第18期棋聖戦を防衛して棋聖位を通算5期とし、23歳で永世棋聖の資格を得た。これが永世称号獲得の最年少である。今年の藤井は棋聖戦あるいは王位戦で防衛を果たすと、21あるいは22歳での永世称号獲得となり、中原の年少記録を更新することになる。

筆者は12年に「将棋世界」誌の取材で中原に話を聞いたことがある。

「当時は棋聖戦が年2回だったからね、勝率はともかく、この記録は破られないんじゃないかな」とはその時の中原の談話だ。また勝率記録については「当時は大してすごいとは思っていなかったし、いつかは破られると思っていた」(注・中原は66年度にも32勝7敗、0.821で当時の最高勝率記録を作っている)とも語っていた。

ところが、である。現在の視点では最高勝率記録よりも最年少永世称号のほうがはるかに実現の可能性がありそうだ。昭和の大名人といえども、藤井のタイトル戦での活躍は想定以上に速く実現し、また自らが考える以上に自身が記録した最高勝率の数字は高みにあったということだろうか。

通算記録、連続記録は「どうなるかわからない」としかいいようがない

他の記録では大山康晴十五世名人の「全タイトル戦連続出場50期、10年」(藤井は19期、3年までは確定)、「名人・A級在位連続45年」(3年)、羽生の「タイトル獲得通算99期」(21期)、「同一タイトル戦連続獲得19期、連続出場26年」(4期、5年)などの更新へ期待がかかる。

しかし、実現が10年、20年先となる通算記録、連続記録に関しては「どうなるかわからない」としかいいようがない。10年前に現在の藤井聡太の活躍を予想していたものがまずいなかったのと同じである。まずは藤井の活躍、そして絶対王者に対する挑戦者の奮闘を期待しながら見ていきたいと思う。

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