過去のライフプラン表の過信は破滅を招く
このように、ライフプラン表を引いた後に家計が急変するケースは少なくありません。しかし多くの場合、ライフプラン表に不測の事態は加味されていません。
そもそもライフプラン表を引く際、多くの人は希望通りにお金を使えるかを確認したくて、今の収入が維持、あるいは上昇する前提でライフプラン表を描こうとします。要は、希望的観測をもとに、表を作成してもらうわけです。
対して、我々が考えるライフプラン表は、あくまでも目の前の状況を見た上で、希望する将来のために、どのくらい資金が不足しているか、不足を補うために家計をどう改善するか、貯金と投資の比率をどうするか、目の前の方向性を定めるために作成しています。つまり、「希望通りにお金を使えるかの確認」ではなく、「希望を実現するための課題整理」を目的にしています。
場合によっては、「このままいくと○歳で貯蓄が底を突きますよ」などと注意喚起します。さらに、どの方にも共通して、「この表は、勤務先の倒産やご病気で働けなくなるなど、不測の事態まで織り込んでいません」と言い添えます。
いったん状況が変わってしまえば、表はマネープランの指標になるどころか、絵に描いた餅になります。にもかかわらず、家計が変化していることに気づかないまま、あるいは気づいていても楽観的に考えているのか、「普通に使っていても老後資金5000万円貯まるから」と、お金の使い方を変えずに放置する方もいます。これは破綻への道です。
ライフプラン表は、将来を広い視野で見られるツールである一方、使い方を間違えると、家計が火の車になる“諸刃の剣”です。適宜「このまま表の通りに運用してもいいのか」、見直しが必要です。
子供の成長に伴い支出もじわじわ増大
さて、話を工藤さんの家計に戻しましょう。工藤さんには、「以前のライフプラン表はいったん忘れてください」とお願いし、新たに仕切り直しすることにしました。
早速、家計の収支を確認すると、手取りの世帯月収43万5000円のうち、前月の支出は44万5500円。1万500円の赤字が出ていました。聞けば、家計はトントンか、赤字が出るかという状態。もともと工藤家は、家を買うタイミングでライフプラン表を引くような慎重派ですから、ユリコさんの年収が半減しても赤字は最小限に抑えられました。
しかし、貯金は大きく減っています。夫のボーナス年100万円は、長男の私立の学費に消えるため、本来ならばボーナスから出すはずの年間の特別支出(帰省、家電ほか消耗品交換)が、貯金から出さざるを得ない状況に。そのため、1年前は450万円あった貯金が現在400万円まで激減しています。
次に各費目を見ていくと、“ゆるい支出”が散見されました。
ひとつが、食費。総菜や外食の回数は少ないですが、バカになりません。また、2人の子供が小さかった頃に比べ、今は食べ盛り。その成長に伴い食べる量は増える一方です。加えて昨今の物価高。夫婦は、食費が月10万円超になっていたことに気づき、「こんなにも食費がかかっていたのか」と呆然としていました。そこで、週の予算を決め、買い物の仕方を工夫するようアドバイスしました(食費:10万5000円→7万5000円へ削減)。
水道光熱費も値上げが続いていることから、3万1000円と、思っていたより高くついていたことに気づいた夫婦。「シャワーを流したままシャンプーをしない」など、使い方を見直す必要があることを伝えました(水道光熱費:2万7000円に削減)。日用品も、こだわりの高級シャンプーなどをワンランクずつ下げてもらいました(日用品:1万7000円→1万4000円)。
こうして、無意識の“ゆるい支出”を見直したことで、計3万7000円もの削減に成功。収支の差額は、多い時で月1万円の赤字があったところ、2万6500円の黒字に転換できました。