推奨される「50%以上の運動強度」を無理なく行える

また、標準的な体力を持つ40代の女性が若干のアップダウンのある約3.8キロメートルの道のりを、とくに急ぐことなく歩行と自転車で走行した場合の心拍数の変化を比較します。所要時間は歩行で44分間、自転車で16分間です。

歩行では大半の運動強度が50%以下なので、健康づくりにはもう少し高い運動強度がのぞまれます。一方、自転車では大部分の走行時間で運動強度が60%を超えています。このように、自転車では推奨される「50%以上の運動強度」を、それほど無理することなく行うことができるのです。

どちらもとくに急ぐことなく運動を行ったのに、なぜ自転車では心拍数が上昇したのでしょうか。これは自転車の場合、発進や坂道で運動強度が大きく増加するためです。実は、交差点の中央部は水がたまらないように少し高くなっています。そのため、信号などで交差点の手前に停止すると、そのたびに発進・加速を緩い上り坂で行うことになります。日本の街中は信号機が多く、そこでの停止・発進のさいには大きな筋力を使うことになるのです。

自転車では、運動強度を変動させるインターバル・トレーニングを自然に行うことができ、大きな力を出す筋力トレーニングの要素も含まれるため、心拍数が上昇しやすいのです。

休日にサイクリングを楽しむ若い女性
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

「疲れないで運動強度を高める」ためのサドルの高さ

運動強度を高めるための乗り方のコツがあります。そのさいのキーワードが「疲れない運動」です。疲労を感じないと運動した意味がないと考えがちですが、それは正しくありません。まず、推奨するサドルの高さは、おおまかに言うと、サドルに座って脚を伸ばしたときに、つま先が地面にようやく付くくらいです。

自転車運動の疲労度とサドルの高さについて考えていきます。疲労度を測るためには、被験者に主観的な感覚を答えてもらう方法と、疲労を測定するための生理学的な指標を用いた数値的な評価方法の2種類があります。

この実験では、成人の男性5名、女性3名が、「推奨の高さ」と「通常の高さ」(高・低)の2つのサドル条件で、1回ずつの自転車運動を行っています。実験には「自転車エルゴメータ」を使用しました。自転車エルゴメータは、ペダルをこぐさいの負荷を任意に変えることができます。ペダルの負荷をだんだんと重くしながら(運動強度を高くしながら)自転車運動を行う「漸増負荷運動」を行いました。また、運動強度を高くしていきながら、最大酸素摂取量の20%になるところをI、40%をII、60%をIII、80%をIVとして4段階に分け、そのときの疲労度を測定しています。