歩行よりも自転車のほうが血糖値は下がる

高石鉄雄『自転車に乗る前に読む本』(講談社ブルーバックス)
髙石鉄雄『自転車に乗る前に読む本』(講談社ブルーバックス)

歩行と自転車の糖代謝に対する効果を比較してみましょう。有酸素性のエネルギー代謝では、糖質や脂質が酸素と反応して二酸化炭素と水ができます。安静時には糖質と脂質は同じくらいの比率で使われていますが、運動を始めてその強度が強くなるにつれて糖質が使われる比率が高くなります。糖質と脂質がどれくらいの割合でエネルギー源として使われているかは、呼吸で排出された二酸化炭素と吸収された酸素の体積比で知ることができます。その比を「呼吸商」と呼びます。

同じ強度の運動をした場合に、歩行と自転車運動では、どちらの方が糖を使う割合が高くなるのでしょうか。私たちは、糖尿病患者9名と健康な成人10名にご協力いただき、実験室で歩行と自転車運動を行ったときの呼吸商を測定しました。すると、糖尿病患者と健康な成人のどちらのグループも、いずれの運動強度でも、歩行より自転車運動の方が呼吸商の数値が高くなりました。この結果は、同じ運動強度では、歩行よりも自転車運動の方が糖をたくさん消費して血糖値を下げる効果があることを示しています。

太ももでたくさん「糖」が使われていた

それを確かめるために、7名の成人男女に同じ心拍数になるように10分間の歩行と自転車運動を行っていただき、運動前後の血糖値を測定しました。すると歩行では、7名平均の血糖値が運動の前後で約12.0(mg/dL)分減少したのに対して、自転車運動では約16.4(mg/dL)分の減少が見られました。

同じ運動強度なのに、なぜ自転車運動は歩行よりも糖の消費が多くなり血糖値が下がったのでしょうか。40%の運動強度で歩行と自転車運動をしたときの糖代謝をPET(陽電子放射断層撮影)で捉えた画像では、歩行はあまり糖代謝が活発なところが見あたらないのに対して、自転車運動では太ももでたくさん糖が使われています。歩行では使う筋肉が分散することで糖代謝がそれほど活性化しないのに対して、自転車運動では太ももの筋肉が集中的に使われることで糖代謝の活性化が進み、糖をたくさん消費して血糖値が下がるのだと考えられます。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

コメントby SERENDIP

主観的な疲労感が強い運動のほうが、疲労感の弱い運動より健康に効果的だと考えてしまう人は少なくないだろう。主観的な感覚と実際の成果との間には、必ずしも直接的な関連性はないという点で、「疲れない」運動のほうが効果的な場合があるということは示唆的だ。仕事や学習においても、疲労感の強い方法を続けるより、自分の能力や体質にあった、より合理的な方法で適切な休息を取りながら行うほうが効果があがる場合もあるに違いない。さまざまな場面で、「疲れない」方法で最大の効果を得る方法を考えるきっかけにできそうだ。

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