約1万年前のアフリカで起きた「人類最初の戦争」から核兵器の発明と使用、ドローンなどの最新技術が投入されたロシア・ウクライナ戦争まで――。文明の進歩に伴い急速な変化を続けてきた戦争の歴史を一冊に凝縮した『戦争と人類』(著:グウィン・ダイヤー、翻訳:月沢李歌子/ハヤカワ新書)。
ここでは本書より、「戦争の起源」と「チンパンジーの戦争」について、一部改編・抜粋して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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戦争はいつから行なわれているのか
人類は戦争を生みだしたのではない。受け継いだのだ。人類のもっとも遠い先祖も戦争をしたし、進化の隣人であるサルも戦争をする。だが過去2世紀のあいだ、戦争は文明とともに発展したもので、狩猟採集民である祖先たちにとっては重要な問題ではなかったと考えられてきた。
18世紀半ばにその考えを強力に推し進めたのが、影響力の大きかった啓蒙主義の思想家ジャン゠ジャック・ルソーだ。ルソーは、大衆文明台頭以前の「高貴な野蛮人」は自由と平等のなかで生きたと主張し、さらに平和に暮らしていたことを示唆した。
よって、目下、文明国家を支配する無慈悲な王と聖職者を排除さえすれば、わたしたちは失った楽園を取り返すことができる、と。それは魅力的な考えであり、ルソーの時代の人々はそれにもとづいて行動しはじめていた。ルソー自身は、アメリカ革命勃発の2年後、また、フランス革命という大変動のわずか11年前に世を去った。
人類とDNAの99%以上を共有するチンパンジー
奇妙なことに、ルソーにとどめを刺したのは人類学分野の研究ではなく、霊長類学者のジェーン・グドールだった。
霊長類学者のジェーン・グドールはタンザニアのゴンベ渓流国立公園で研究中に、チンパンジーの群れが近くに住む他の群れに戦いを仕掛けるのに気づいた。
人類はチンパンジーとDNAの99パーセント以上を共有し、少なくとも狩猟採集段階以来、あらゆる地でつねに戦争を行なっているため、この行動はおそらく少なくとも400万年以上前の最終共通祖先で遡ってヒト亜属とチンパンジー亜属に共通するものだろう。