36歳にして東大生活18年目。8年で東大法学部全3コース制覇した「長期在学男」が語る「東大の流動化」「煩悶青年」「将来の夢」(「週刊文春」編集部/週刊文春Webオリジナル) “東大18年生”高原智史さんインタビュー#2

「人生の半分は東大生です」“東大18年生”の高原智史さん(36)。法学部を3回卒業し……〈大学院生活10年目、自らを「長期在学者」と呼ぶ男が語る 「東大へのこだわり」と「学士入学」〉〉から続く

日本の最難関東京大学――近年は、テレビ番組「東大王」(TBS系)などの人気で、個性的な学生たちに注目が集まっている。その東大に学生・院生として人生の半分、18年間通い続けている男がいる。

自らを長期在学者と称し、一貫して教えられる立場にあり続けるのはなぜか、話を聞いた。(全2回の2回目/最初から読む)

“東大18年生”の高原智史さん(36)

研究活動の一環として制作した映画「籠城」

――現在の研究内容は?

高原 かつてあった第一高等学校、通称「一高」という教育機関の歴史です。

一高は「旧制一高」とも呼ばれる。1874年に前身となる「東京英語学校」が誕生し、1886年に「第一高等中学校」として創設された。「大学予科」としての教育機関で、卒業生の多くは東大に進学した。1950年の学制改革でその歴史に幕を下ろし、東京大学教養学部前期課程に引き継がれた。

高原 多くの一高生は、東大に進み、官僚になって立身出世し、お国のために奉公しようと考えていたんです。しかし、そんな一直線の生き方に疑問を持った人も当時いたわけです。彼らは「煩悶青年」と呼ばれました。煩悶青年の中には、華厳滝に身を投げた藤村操(1903年没)などもいた。

志を持っていた青年たちが、いろんな状況で挫折し、悩み、他の活動に走ったりする。北村透谷もそうです。明治元年に生まれ、自由民権運動に突っ込んだけれども、挫折し、文学者になるんですが、25歳で自殺してしまう。そういった人たちを研究しています。そういった人の「煩悶」が、自分とオーバーラップしていると考えたりすることもあります。

――「一高」の映画も作ったそうですね

高原 東京大学と北京大学が共同で運営する「東アジア藝文書院」(EAA)というプログラムがあり、2019年の春に「一高プロジェクト」という活動が始まりました。その活動に参加して、一高生の苦悩とそれを研究する東大生、つまり私の苦悩を重ね合わせた65分の映画を作りました。原案を私が書き、院生の監督と共同で脚本も書きました。

企画から1年半ほどかけ、22年の3月に完成しました。研究プロジェクトとして、大学の予算で制作しました。タイトルは「籠城」。当時、「籠城主義」という一高のスローガンがあったんです。汚濁にまみれた社会から引きこもって自分たちを高めるんだ、みたいな、まあ、非常に偉そうな言葉なんですけど。